安倍晋三政権が安全保障関連法を整備して集団的自衛権の行使を可能としたのは、日米同盟の役割分担を見直し、より対等な同盟とするためでもあった。だが、トランプ米大統領の発言からうかがえるのは、伝統的な日米同盟観だ。
トランプ氏は昨年6月に来日した際の記者会見で「どこかの国が日本を攻撃したら、米国はその国と全力で戦う。一方、他国が米国を攻撃したとしても、日本は戦う必要がない。不公平じゃないか」と述べた。トランプ発言に後押しされるかのように、米政府は在日米軍駐留経費の日本側負担を増額するよう求める姿勢を崩していない。
これに対し、安保法制定に関わった日本政府関係者は「安保法が施行されれば全てが一瞬にして変わるわけではない。法的権限だけではなく、計画、装備、訓練を見直して初めて効果が表れる」と語る。日米両政府は安保法を前提とした共同作戦計画を策定するため、現在も水面下で協議を重ねているという。
ただ、実際に有事が発生すれば、安保法の限界が露呈する恐れもある。現行憲法の下では集団的自衛権の行使は限定されたままだ。さらに、日本政府が自衛権を発動していない状況で自衛隊が米軍に後方支援を行っているとき、活動領域が「現に戦闘が行われている現場」になれば自衛隊は撤退しなければならない。
防衛省関係者は「そうなれば速やかに集団的自衛権を発動できる『存立危機事態』や(個別的自衛権を発動できる)『武力攻撃事態』を認定し、自衛権を発動する」と説明するが、政府がスムーズに事態認定を行えない可能性もある。そのとき、自衛隊は米軍を見捨てる形になり、トランプ氏の不満は現実となる。
一方、日本国内の安全保障をめぐる議論も、大きく変化したとは言い難い。それがあらわになったのは、政府が昨年12月に閣議決定した中東地域での情報収集活動のための海上自衛隊派遣をめぐる議論だった。