アイドルの魅力引き出し 「余命3カ月」後も熱意 大林宣彦監督



「転校生」のプロモーションに臨む俳優・尾美としのり、女優・小林聡美、大林宣彦映画監督=昭和56年11月
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 10日、肺がんのため82歳で亡くなった大林宣彦さんは、複雑な合成を駆使した幻想的な映像手法と、女優の才能を次々と開花させる演技指導で知られた。

 広島県尾道市の代々医者の家系に生まれる。子供の頃、家にあったおもちゃの映写機で、フィルムを切り張りしたり、絵を描き込んだりして遊んでいた。映画との関わりについて、「僕は観客だったことがない。最初から作る人だった」と語っていた。

 アイドルの魅力を最大限に引き出す能力については定評があった。「ねらわれた学園」では薬師丸ひろ子を一躍人気女優に。故郷である広島県尾道市を舞台にした「尾道3部作」の第2作「時をかける少女」では原田知世さん、「さびしんぼう」では富田靖子さんの魅力を開花させ、多くのファンを魅了した。

 尾道3部作では、狭い坂道など、同市の郷愁に満ちたたたずまいが人気を呼んだが、「当時の全国的な町おこしブームへの反発があった。昔ながらの町並みがどんどん壊され許せなかった」と当時の心境を語っていた。その映像は多くのファンの心をつかみ、今もロケ地を巡るファンが途絶えないなど、長く愛される作品となった。


 平成8年9月、30周年を迎える「日曜洋画劇場」について記者会見する淀川長治さん(右)と大林宣彦監督=東京都内のホテル
 平成8年9月、30周年を迎える「日曜洋画劇場」について記者会見する淀川長治さん(右)と大林宣彦監督=東京都内のホテル
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 物腰は柔らかいが、映画や平和への思いを情熱的に語る人物。近年は新潟県長岡市を舞台にした「この空の花-長岡花火物語」や北海道芦別市の「野のなななのか」など、反戦をテーマにした作品を製作した。手弁当での低予算映画だったが、大林監督の人柄を慕う多くのスタッフや俳優たちに支えられていた。

 平成28年には佐賀県唐津市を舞台にした「花筐 HANAGATAMI」を撮影開始直前に肺がんであることが判明。余命3カ月といわれたが、治療を続けながら完成させた。


大林宣彦監督の最新作「海辺の映画館-キネマの玉手箱」の一場面(C)「海辺の映画館ーキネマの玉手箱」製作委員会/PSC 2020
大林宣彦監督の最新作「海辺の映画館-キネマの玉手箱」の一場面(C)「海辺の映画館ーキネマの玉手箱」製作委員会/PSC 2020
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 さらにその後、ふるさとでもある尾道市で20年ぶりに「海辺の映画館-キネマの玉手箱」を撮影。サイレント、ミュージカル、時代劇、アクションと映画の様式を総動員し、戊辰戦争から太平洋戦争までの戦争の愚かさと悲劇を描いた。

 完成後の取材で、「映画は、未来に幸せに生きる若者たちのために存在する。それが映画の誇り。あと30年は映画を作りますよ」と笑顔で語る一方、「この作品が、僕の“遺言”」などと口にしたが、遺作となった。

 本来、4月10日に公開予定で、関係者は「3月末から容態が悪化していたが、4月10日の公開を心待ちにしていた」と語るが、新型コロナウイルスの感染拡大で公開が延期になった。その公開の日に帰らぬ人となった。



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