【香港=藤本欣也】中国が香港に導入する「香港国家安全維持法」案が近く可決、成立する見通しが強まっている。20日に公表された同法案の概要は、「一国二制度」の下で香港に認められた「高度な自治」が喪失し、国際金融センターを支える「三権分立」の崩壊をもたらすものだ。国際社会や市民が享受してきた香港の自由は土壇場に追い詰められている。
香港で特に警戒視されているのが、香港に新設される中国の機関「国家安全維持公署」だ。国家安全に関する犯罪は一般に香港当局が取り締まるが、「特定の状況下のごく少数の犯罪」は同公署が取り締まると法案では規定されている。
「特定の状況」がどういう状況なのか不明な上、同公署は香港当局を監督・指導する機関でもある。「捕まれば中国本土に移送されてもおかしくない」(民主派の公民党メンバー)との懸念が生まれている。
香港国家安全維持法が「香港の法律」より優先される-と規定されている点も物議を醸している。一部の親中派は「(言論や報道、集会、デモの自由などを保障した)基本法(ミニ憲法)よりも優先される」との見方を示す。
香港大の陳弘毅教授は「立法会(議会)には香港国家安全維持法を修正したり、同法に抵触する法律を制定したりする権利がないということだ」と解説する。香港の立法権は大きな制約を受けることになる。
また、国家安全に関する犯罪を審理する裁判官を、政府トップの行政長官が指定する点も論議を呼んでいる。香港の外国人裁判官らを審理に関与させない苦肉の策とみられている。