リニア中央新幹線の着工をめぐり、JR東海の金子慎社長と静岡県の川勝平太知事が26日に行った初会談は、進展がないまま終わった。令和9年の開業目標を掲げるJR東海は今後、会談の事実上の物別れを受け、開業時期の見直しを迫られることになりそうだ。国土交通省など関係省庁や山梨県や愛知県など、リニア沿線自治体との調整も必要となり、影響は甚大だ。
「抜本的な災害対策は(東海道新幹線の迂回路となる)バイパスを作ることなので、それが(リニアの)一番の目的です」
金子社長は会談で、リニアの必要性について、災害対応が第1で企業の利害で急いでいるのではない、と強調。その上で9年開業のために、6月中の静岡工区のトンネル準備工事の再開を「1日でも早く進めたい」と改めて訴えた。
準備工事について静岡県や関係自治体は、トンネル工事の影響について議論している有識者会議の結論を待つべきだという立場で、6月中の着工に反対している。会談で川勝氏は「リニア計画に反対しているわけではない。リニアと環境を守ることをどう両立させるか(が重要だ)だ」との立場を述べた。
同時に川勝氏は、移動が制限される新型コロナウイルス禍を受け、リニアの必要性に疑問も呈した。金子氏は、東京から大阪までを1時間余りで結ぶリニアの必要性を一環して主張。両者の論点はずれたままだった。
会談後、金子氏は「(知事の考えを)確かめきれなかったのは心残りだ」と複雑な表情を浮かべた。会談に先立って赤羽一嘉国土交通相は「会談が実りあるものになるのを期待している」と両者に歩み寄りを促したが、会談は空回りに終わった。
事実上の会談決裂を受け、開業時期を含めた計画の見直しは不可避の情勢となった。国交省関係者によると、リニアの工事完了予定時期は、国交省に提出している工事実施計画の中に明記されている。事業主体のJR東海が開業が遅れると判断した場合は、全国新幹線鉄道整備法に基づいて、新しい認可手続きが必要になる。このため、工事の調整以外にも準備作業が増える。
開業が遅れることになれば、JR東海に影響が出るだけではない。開業に合わせた街づくりを計画中の長野県飯田市など「リニア沿線自治体への影響も大きい」(国交省関係者)。コロナ後の経済再開に期待していた関係者の混乱も拡大しそうだ。(大坪玲央)