こんなはずじゃなかったのになぁ…。今年、降ってわいたように出現した「新型コロナウイルス」は、私たちの暮らしを激変させました。いきなり窮地に立たされ、戸惑い、迷う日々を送る人はたくさんいます。コロナ禍を生きる人たちの声に耳を澄ましました。
【写真】AV出演の過去が暴露された元新聞記者の実話
風俗店勤務・34歳/神戸・福原で働く。四国出身。高校には進学せず、コンビニや居酒屋などで働いた後、風俗の道に。
■世の中から切り離されてる
神戸市内の風俗店で男性に性サービスを提供しています。コロナの影響、収まりませんね。
9月になっても増えなくて、平日はゼロの日もたまにあります。お盆もひどかったですよ。多くてもお客さんは1日3人。例年なら5、6人は堅いので、半分ぐらいでしたね。
そもそも風俗店の需要って減ってるんですよ。昔は「職場の先輩に連れて来てもらいました!」っていう若い子とかいたんですけどね。なので、業界が冷え込んでいるところにコロナが来た、そんな感じです。
2月の半ばぐらいからお客さんが減り始めました。企業の出張がなくなった影響が大きかったですね。指名してくれるお客さんって、出張で神戸に来た時に寄ってくれるんです。でもみんな、会社で第1号の患者になりたくなかったんじゃないですか? もし感染したら、感染経路を調べられますもんね。
■父はDVだった
19歳で神戸に来ました。父親のDV(ドメスティックバイオレンス)がひどくて、早くお金をためて家を出たかった。風俗で働くようになった理由の一つです。まあ、性にも合ってたんでしょうね。
風俗って、自分が頑張れば、それだけ稼げるんです。若い頃は指名取って、週3、4回店に出て、毎回5、6万円は持って帰ってましたね。
コロナ以外にも大変なことはあったんですよ。
2008年のリーマンショックです。週1回来てくれてたお客さんが月1回になりました。仕事が回らなくなって、「おれ、ほんまに首くくらなあかんわ」ってメール送ってきたお客さんもいましたね。「ほんまに困ったら助けるわ」って返信しました。男のプライドなのか、その後は何も言ってきませんでしたけど。
翌年の新型インフルの時もひどかった。国内では神戸で初めて発生が確認されたんですよね。神戸に出張で来る人がいなくなって、お客さんが減りました。
でもコロナの影響が続く今、つくづく思うんです。あぁ、あの頃はまだましやったんやなぁって。
私、スーパーでは割引シールのお総菜を買うようになりました。節約です。たばこも減らしています。
私たちの仕事って行政もあまり注目しません。コロナ禍でいっそう、世の中から切り離されているように感じてるんです。
■政治の話? めちゃします
お店で、ほかの女の子とめっちゃコロナのこと話しますよ。政府の対応とかの話題が多いかなぁ。政治の話とかもするんですよ。
コロナの影響で2月半ばごろから暇になりました。4月の緊急事態宣言の数日後には、地域の風俗店は営業を自粛しました。コロナ前は月50万円ほどだった収入が、4月は十数万円。うちらがどんな状況か伝えないとだめだと思って、兵庫県の相談窓口に電話しました。でも「とりあえず上に伝えておきます」っていう感じでした。
でもね、今回、そんな私を救ってくれたのはお客さんなんです。お店が閉まってる間、金銭面で助けてくれる人もいました。
私ね、去年の年末まで、父親の借金返してたんですよ。で、年が明けて、さあ頑張ろう!って思ってたら、コロナですよ。仕事が減ったんでもう1件、別の風俗店も掛け持ちするようにしたんですけど、そこもつぶれてしまって…。
■実は、してみたい仕事が…
ほら、これ見てください。腕にいっぱい傷あるでしょ。中学生ぐらいからリストカットしてるんです。
不安とか罪悪感、焦燥感…。そういった感情に襲われて、もう消えてしまいたいって思う時があるんです。リスカをすると、そういう気持ちを静められるんです。
ここ2年半、我慢してるんですけど、コロナでお客さんが減って、この先どうなるんやろって不安になって、あぁリスカしたいって思ったんです。でも我慢して、代わりに耳や腕にピアスをたくさん開けました。
コロナでこの仕事を続けられなくなったら?
えー、うーん…。
実はね、してみたい仕事はあるんです。エンバーマーっていうんですけど、知ってます? 事故とかで損傷のひどい遺体を修復する人です。
湯灌師さんもいいなぁって思ってるんです。5年ほど前、おじいちゃんが亡くなったんですけど、湯灌師さんが遺体をきれいにしてくれる姿見て、なんか尊い仕事やなぁって思ったんです。
でもどうですかね、湯灌師さんって、仕事中、腕まくりするんですよ。やっぱリスカの傷、いっぱい見えるとだめでしょ。ねぇ?
風俗の仕事はリスカしててもテーピングとか巻いてできますからね。
それにずっと風俗で生きてきたんで、やっぱり簡単には離れられないと思います。
(聞き手・紺野大樹)