米大統領選を見つめる中国の自信と不安

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米大統領選を見つめる中国の自信と不安

 また、中国紙・環球時報は10日付の社説で「トランプ大統領は結局のところ新型コロナウイウルスによって(選挙に)負けたのだ」と指摘した。さらに対中脅威論をあおり、中国への圧迫を強めたが、トランプ氏にとっても、米国にとっても、本当の敵は、新型コロナなど内部の問題であって、中国ではなかったと主張した。

 バイデン政権になっても米中対立の構図は変わらないというのが、中国でも専門家らのおおむね一致した見方だ。しかし、それでも「予測不能で、極端な発言が多く、やたらと中国たたきに奔走したトランプ氏よりはバイデン氏のほうがまし」という感情は、中国メディアの報道から、にじみ出ている。

 一方、選挙の前も後も落ち着かない米国の状況をよそに、中国の習近平国家主席は、着々と自らの長期政権への布石を打っているようだ。10月12日には中国共産党内での自らの立場を高める工作条例を公表し、11月3日には今後5年間のみならず2035年までの中長期の発展計画の概要を公表した。連日、テレビに登場する習氏の姿は自信と余裕にあふれている。

 中国の政治学者は「習氏はコロナ発生初期に大きな不安を抱えたが、今では国内でコロナの制御に成功し、自信を深めている。特に中米が対立する中、米国の混乱に比べ中国は経済も回復基調で非常にうまくいっているとの思いは国民の中にも強い。習氏にとっては結果的にトランプ氏に大きく助けられた1年だった」と分析する。

 ◇習氏による習氏のための条例

 10月中旬に公表した工作条例とは、中国共産党指導部の統治方法について具体的に記したものだ。

 その第3条には「二つの擁護」というキーワードが含まれている。二つの擁護とは①党総書記である習近平氏の党の核心としての地位を擁護する②党中央の権威と統一的指導を擁護する――のことだ。

 さらに、習氏を含め7人いる中国共産党の最高指導部、政治局常務委員の中で、会議の議題の決定権を総書記が持つなど、習氏が明確に優越することを示す文言も盛り込んだ。

 中国政治に詳しい静岡県立大学の諏訪一幸教授は「これで名実共に断トツになった。党規約に書かれているものの、すでに形骸化している集団的指導体制を完全に否定したものだ」と解説する。2022年に予定される党大会で、今回の工作条例で示された内容に沿って党規約が修正される可能性もあるという。中国共産党の研究部門にいたベテラン党員も「集団指導体制は、誰もが間違いをおかすという前提で、誤りを修正するために作られたものだ。それをなし崩しにするのは党にとっても良いことではない」と不安を口にした。

 諏訪教授は「何よりも国の『安定』が優先で、そのための党、そして自分(習氏)ということだろう」という点も指摘する。

 10月26~29日には中国共産党の重要会議である第19期中央委員会第5回総会(5中全会)が開かれ、21~25年の「第14期5カ年計画」と35年までの長期目標のそれぞれの基本方針を採択した。

 基本方針に関連して習氏は会議で「35年までに経済の総量か1人当たりの収入を倍増することは完全に可能だ」と発言し、経済で米国を追い抜いて世界一になることへの自信を示している。

 権力の集中と制度化は12年に習氏が党総書記に就任した直後から進めてきたものだ。今回初めて工作条例を制定し、公開したように、内外に見えない形で権力が行使されるよりも、制度化によって透明性が高まったとの解釈もある。しかし、「二つの擁護」は習氏の存在を前提としたもので、普遍的な仕組みとは言いがたい。中国は18年3月の憲法改正で国家主席の2期10年の任期制限を撤廃しており、習氏への権力の集中化によって、3期目続投の既定路線化はますます進んでいるように見える。

 ◇習氏のスピーチライターが明かした中国の不安

 一方、5カ年計画と35年までの長期目標の概要を公表した2日後、国営中国中央テレビ(CCTV)が放映した特別番組は、計画と目標の起草者らに、習氏が抱える懸念も率直に語らせた。

 登場したのは習氏の就任直後からスピーチライターとして行動を共にしているとされる施芝鴻氏だ。習氏とほぼ同世代の施氏は1990年代から党の機関紙などで、ペンネームで論陣を張り、党内きっての書き手として名前が響いていた人物だ。

 施氏はこの番組で、計画を起草する過程で習氏から「われわれは、まず自国のことをしっかりやらなければならない。その第一は発展、第二は安全だ」と指摘されたと明かす。そして施氏は、発展よりも安全について詳しく解説した。施氏によれば、習氏が意味する安全とは、外部によるさまざまな妨害要因によって、中国が目指す「社会主義現代化国家」の建設が遅れたり、中断したりすることが決してない状況を確保することだという。

 ここ1、2年、中国は次世代通信規格「5G」の通信網から中国の華為技術(ファーウェイ)を排除する動きや、新疆ウイグル自治区、香港での人権問題に関する批判、そして米国による台湾との結びつきの強化など、米国を中心とした国際社会の動きに悩まされ続けてきた。さらにコロナ感染拡大後は、中国の初期対応が適切だったのかを問いただす声が高まった。中国への警戒感が世界中で高まる状況を、中国の安全への脅威と習氏が捉えていることが、施氏の解説によってうかがえる。

 トランプ氏からバイデン氏への米政権の移行によって、そうした状況に変化はあるのか。

 バイデン氏はすでに欧州各国の指導者と電話を交わし、連携を確認した。中国のハイテク企業排除の動きは欧州を巻き込んで進んでおり、米国の政権が代わっても大きな流れが変わることは考えにくい。米民主党政権は中国の人権問題については、トランプ政権より厳しい目を向けると見られている。

 さらに中国は昨年、1人当たり国内総生産(GDP)が1万ドルを超え、今後は15年かけて2万ドルを目指す。以前より豊かになることで満足していた国民が、格差や不公正さに声を上げ出すのは、まさにこれからだと言える。

 特別番組に登場したもう一人の起草者、張勇氏は計画を書き進める中での最も難しかった点について「外部環境の不確定性だ。過去の5カ年計画策定期に比べて変化が大きすぎる」ともこぼした。

 中国にとって、コロナ対応の成功と米国の混乱による「つかの間の自信」を味わった先には、そうした「不確定性」が待っている。その中で習氏がいかに「安全」を守るのか。これまで新疆や香港で進めてきた強引な手法を続けるのであれば、中国の「外部環境」は思惑に反して悪化を続ける可能性が高い。【中国総局長・米村耕一】

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