(CNN) 連邦地裁判事は、辛辣(しんらつ)な言葉で彼らの訴えを非難した。ジョー・バイデン次期大統領のペンシルベニア州での勝利を覆そうとする主張には証拠がなく、法的にも意味が通らないと断じた。ところがその直後、トランプ大統領の弁護団は必死になって大敗の事実をねじ曲げ、何とも奇妙な世界観に基づく勝利宣言を行った。弁護団のメンバーであるルディ・ジュリアーニ氏とジェナ・エリス氏は声明で、訴訟の棄却について「我々の戦略にとって有利に働く。連邦最高裁への提訴を迅速に行えるようになる」と語ったのである。
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だがもしトランプ氏の弁護団が、最高裁による救いの手を期待しているとしたら、それは妄想というものだ。当該の訴訟並びに2020年の大統領選の結果を覆そうとするより大きな取り組みにおいて、トランプ氏の弁護団はまさに成功への道から外れようとしている。
虚偽の発言と不可解な法的主張であふれた記者会見の中で、エリス氏はトランプ氏の弁護団を「精鋭ぞろいの攻撃部隊」と形容した。しかし、大規模な不正投票の証拠を全く明らかにできず、筋の通った法理論を述べるでもないところをみると、どうも実態は異なるようだ。トランプ氏の盟友として知られたニュージャージー州のクリス・クリスティー前知事は弁護団を「国家の恥」と批判したが、こちらの方が当たっている。弁護団は後に、ともに不正を訴えていたシドニー・パウエル弁護士と距離を置くと発表。パウエル氏は大統領選をめぐる陰謀論を広めていた。
実際、ペンシルベニア州のマシュー・ブラン連邦地裁判事が21日に下した判断は、私が過去に見たあらゆる判事の中でも最も厳しい非難を含むものだった。同判事はオバマ前大統領に任命されたが、以前は州共和党の様々な役職を歴任していた。判事はトランプ弁護団の「こじつけの法的主張」に軽蔑の言葉をいやというほど浴びせ、「法的根拠がなく、(中略)しかも裏付けのための証拠がない」と切り捨てた。トランプ氏の弁護団が最初に提起した憲法上の主張の1つについては、一貫性がないことに言及し「フランケンシュタインの怪物(のようにつぎはぎだらけ)」と嘲(あざ)笑った。
そのうえで、もしトランプ陣営の主張を認めれば、700万人近い有権者から選挙権を取り上げることになると指摘した。
簡単には引き下がらないジュリアーニ氏らは、訴訟を第3巡回区連邦控訴裁判所に上訴すると発表した。彼らにはそうする権利があるが、行く手には相当困難な道のりが待ち構えている。ブラン判事の明白な判断結果として、トランプ氏の弁護団にはいかなる証拠もなければ認識可能な法理論もまったくないことが示されているからだ。しかもトランプ氏のチームは連邦控訴裁判所に新たな証拠を提示することができない。手続き上の問題として、連邦控訴裁判所では地裁で審理された証拠記録のみを扱い、新たに見つかった証拠は考慮に入れないのが通例だ(ジュリアーニ氏と彼のチームがそうした証拠を見つけた様子は微塵<みじん>もないが)。
それでもなお、トランプ氏の弁護団は最高裁が彼らの訴訟を受理するものと信じ込んでいる。一般的に連邦地裁での裁判に敗れた側は権利として控訴裁判所に上訴することができるが、何人たりとも連邦最高裁に受理してもらう権利は有していない。上訴を受理するかどうかの決定――専門用語で「裁量上訴」と呼ばれる――は、完全に最高裁自体に委ねられており、受理には最高裁判事9人のうち少なくとも4人が賛成する必要がある。裁量上訴が認められるのは、最高裁に持ち込まれる訴訟全体の5%に満たないといわれる。また最高裁はたいてい、政治色の強い訴訟に関わるのを避けようとする。
異例の事態が起こり最高裁が上訴を受理するとしても、これまでの記録を見る限り、トランプ氏の弁護団の勝利を示唆するものはほとんどない。ブラン判事がいみじくも語ったように、トランプ氏側には2つのものが欠けている。1つ目は事実、2つ目は法である。最高裁判事の陣容が現時点で保守派に傾いているのは大した問題ではない。いかなるイデオロギーも、これほど明確な二重の不備をなかったことになどできないからだ。
よしんばすべての予想とあらゆる道理を覆して最高裁がペンシルベニア州の訴訟を受理し、トランプ陣営に有利な判断を下すとしても、選挙全体の結果を変えるには依然として不十分だ。トランプ陣営は同じような司法の奇跡をさらに2回成し遂げる必要がある。獲得した選挙人の人数でバイデン氏が306―232のリードを確保している状況を考慮すれば、トランプ氏がどうにかしてペンシルベニア州(選挙人=20人)と、例えばミシガン州(同16人)あたりを奪い返したところで、バイデン氏はなおも270―268と、選挙人の数で上回ることになる。
2020年大統領選の結果をひっくり返そうというトランプ氏の弁護団の試みは、なるほど国家の恥に違いない。前出のクリスティー氏の言うとおりだ。そして事態は、それより悪くなってもいる。「恥」ならば笑って済ませることもできるが、この現在進行形の取り組みは大統領選に対する国民の信頼を損ねるものであり、我が国の民主主義を実際に傷つけている。
だがこれだけは押さえておきたい。怒りに任せて演壇をたたき、不平不満と大言壮語をいくら並べ立てても、トランプ氏の弁護団には中身がない。彼らの法廷闘争は、始まったその日からすでに絶望的だった。そして彼らは今まさに、敗北の瀬戸際に立たされている。
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エリー・ホニッグ氏はCNNの司法アナリストで、州検事と連邦検事を務めた経歴を持つ。記事の内容は同氏個人の見解です。