(CNN) 米アリゾナ州の刑務所に収監されている64歳のインド系移民、スルジット・シン受刑者は、60年以上にわたって一度も、髪の毛を切ったり、ひげをそったりすることはなかった。
シーク教徒として彼は、髪の毛が神聖な贈り物であり、髪を切らないままターバンの中にまとめておくことは、宗教的信条の中核だと考えている。
だが昨年、彼がアリゾナ州の拘置所に収容された際、施設職員らが収容手続きのために写真を撮影しようとして、ターバンを外し、無理やりひげをそったとして、複数の法的権利の擁護団体が最近、異議を申し立てた。
申し立てによるとシン受刑者は、「深い恥と心の傷」を耐え、ある医療スタッフに「のどをかき切れ、だがひげはそるな!」と訴えたこともあったという。
シーク教徒連合の法務職員であるシンディー・ネズビット氏は「シン氏にとって髪の毛は最重要なものだとわれわれは理解している」とし、「今回の件は明らかに、信教の自由という彼の権利を侵害した」と述べた。
申し立てによるとさらに、パンジャブ語を話すものの英語が堪能ではないシン受刑者に対し、通訳や言葉に関する補助への適切なアクセスが拒否された。
アリゾナ州矯正・更生局は、収容手続きの間、収容者に対して写真を撮影する前にひげなどをそるよう義務付けている。
2017年に自動車による死亡事故を引き起こし、故殺の罪で禁錮5年の有罪判決を言い渡されたシン受刑者は昨年8月、アリゾナ州ユマの刑事施設で、通訳に対してターバンが信仰の一部であることを伝えたものの、ターバンを没収された。
数日後、今度はアリゾナ州フェニックスの施設に移送され、宗教の教義に反するため写真撮影でひげをそることはできない旨を矯正職員に対して伝えようとした。
職員はひげをそらなければならないと言い続けた一方、シン受刑者は通訳を要求。申し立てでは、シン受刑者に資格を満たしたパンジャブ語の通訳があてがわれることはなかった。結局はヒンディー語を話す職員が、ひげなどをそることは信仰に反する旨を矯正当局者に伝えることができたものの、要求は受け入れられなかった。
繰り返し異議を唱えたにもかかわらず、シン受刑者は「手錠を掛けられて束縛され、数時間にわたってひげをそられたという。
だが、複数の擁護団体による圧力を受けて、矯正当局はシン受刑者に宗教上の便宜を与え、ターバンを着用すること、およびひげを伸ばすことを許可した。
アリゾナ州矯正・更生局の報道担当者は、問題は数カ月前に解決したとし、今回の件は誤解によるものと捉えているとの見解を発表。
「2020年11月に、当局はニューヨークにあるシーク教徒連合の法務担当者に対して、シン受刑者がフェニックス刑務所に入所する際に経験した不愉快な出来事について遺憾の意を表明し、心からお詫びする旨の書簡を2通送付している。この出来事は悪意によってではなく、不幸にも、聖職者と警備スタッフの間のやりとりで誤解があったことから生じたものだ」とした。
また、このコメントによれば、シン受刑者はその後、トゥーソン刑務所に移送され、残りの刑期を務め上げる間、髪の毛やひげを伸ばしたり、ターバンを着用したりする宗教的な自由を完全に享受しているという。