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ロシアがウクライナへの軍事侵攻を開始してから、8月24日で半年が経過した。長引く戦闘は今、新たな局面を迎えている。
【画像】ロシアの実効支配地域は5月から広がらず クリミア半島めぐり動き
侵攻開始から半年 現在の戦況
2月24日、プーチン大統領が「特別軍事作戦を決定した」と宣言した直後、ロシア軍がウクライナ国内に侵攻した。プーチン大統領は当初から“核の使用”をちらつかせていて、かつてない事態に世界が衝撃を受けた。
現在の戦況や今後の見通しについて、ロシア政治に詳しい慶應義塾大学の廣瀬陽子教授に話を聞く。
Q. 侵攻開始から3カ月の5月と8月現在では、ロシア軍の制圧地域がほとんど変わっていないように見えます。なぜでしょうか。
慶應義塾大学 廣瀬陽子教授:
ウクライナ側が非常に善戦しているということは挙げられます。欧米の支援や兵器が功を奏していて、ロシアは想定外だった抵抗にあっています。また、ロシアの兵力も足りていません。お金で兵士を集めてはいますが、訓練を十分にしないまま前線に送り込んでいますし、士気も低い。補給もうまくいっておらず、命令系統もうまく機能していません。このために戦況が膠着(こうちゃく)していると考えられます。
クリミアでの攻防活発化 ウクライナの考えは
一方、8月に入って攻防が激化しているのが、2014年からロシアによる実効支配が続くクリミア半島だ。
9日にはロシア軍用飛行場で大規模爆発、16日に弾薬保管場、18日には半島東部で2カ所の爆発が起き、さらに20日にはロシア黒海艦隊司令部にドローンが飛来して屋根の上に落下し炎上した。これらの攻撃は、正式な表明はないがウクライナ側によるものとみられている。
Q. 廣瀬教授はウクライナ側の狙いを「クリミア半島ではなく、今回侵攻された南部の奪還」と考えられていますが、どういうことでしょうか。
慶應義塾大学 廣瀬陽子教授:
ロシアは9月上旬に南部と東部を合わせて住民投票をしようとしていました。今の状況では無理という話も出ていますが、いずれにせよウクライナが南部を取り返せば、ロシアによる住民投票の実施は難しくなります。だから、ウクライナは南部を取り返そうと必死なんです。南部の戦線については、ロシアはクリミアを拠点にしているので、その拠点を攻撃すれば南部へのロシアの攻撃が難しくなるということがあります。住民投票が行われれば、クリミア併合時のようにロシアがそのまま自国化してしまう可能性が高いので、ウクライナからロシアへの「南部をクリミアのようには取らせないよ」というようなメッセージもあると思います。
Q. 8月23日の会議で、ゼレンスキー大統領は「全てはクリミアから始まりクリミアで終わる」といった発言をしたようです。文字通り読めば「クリミアを奪還するまでこの戦争は終わらない」と取れますが、これは本音ではないということですか。
慶應義塾大学 廣瀬陽子教授:
ここに来て、クリミア奪還までを視野に入れた動きも出てきているように思います。戦線が難しい状況になり、ロシア軍が残虐な行為をたくさん行っていますので、このままみすみす引くということもできない。そもそも問題の発端はクリミアから始まっているというのもあります。ウクライナの方向性の転換というのが最近色濃く見えてきていて、欧米が呼応している動きもあります。
慶應義塾大学 廣瀬陽子教授:
欧米は今回の侵攻が始まった時、「クリミアは諦めて東部2州で決着を」といった雰囲気でしたが、最近はクリミア奪還に向けても協力的な姿勢が見えてきています。ただ、クリミアが戦場になると、ロシアも相当な規模で戦闘を展開します。ロシアが“戦争宣言”をして国一体となって戦ってくる可能性が高い。そうなると第三次世界大戦、核使用の恐れもありますので、欧米も「クリミア奪還まで支援してあげたい」という思いがありつつ、まだそこまで決意できないというところだと思います。
ポイントは“この冬” 欧米の支援続くか
Q. 戦闘が長引けば、どちらが優位になりますか。
慶應義塾大学 廣瀬陽子教授:
ロシアです。現在、ロシアはエネルギーの輸出を欧米に対して止めています。今ですらエネルギー価格は相当高くなっていますが、冬になると暖房でエネルギーの需要が増すので、ヨーロッパが受ける負担はより高くなります。そうなると、ウクライナ支援に音を上げる国が増える可能性が高い。ロシアは“ウクライナ支援疲れ”を狙っています。
(関西テレビ「報道ランナー」2022年8月24日放送)
関西テレビ