ロシア軍による砲撃で炎上する小麦畑(6月中旬、ザポリージャ州バシリウカで)=パブロ・セルヒエンコさんの動画から
ロシアの侵略下で相次ぐウクライナの農地火災は、収穫前の穀物だけでなく、営農に欠かせない農機具などにも被害を広げる。「このまま戦争が続き、何もかもなくなったら、どうすればいいのか……」。農業者は悲嘆している。(社会部 伊藤崇、科学部 船越翔)
「何年もかけて作りあげてきたものが全て壊されてしまった」。東部ドネツク州バフムト郊外で、小麦や大麦、ヒマワリなどを作るセルヒー・グリゴリエフさん(53)は9月中旬、読売新聞の取材に語った。
5月から続いた農地への砲撃で小麦畑が炎上し、約700ヘクタールが灰となった。砲撃は倉庫などの建物にも及び、耕運機やトラクターも壊された。セルヒーさんは「ロシア軍は、農地を狙って攻撃している」と憤る。
農地火災は、ウクライナ南部でも相次ぐ。ザポリージャ州バシリウカのパブロ・セルヒエンコさん(24)の畑では、小麦や大麦などを植え付けた約200ヘクタールが焼けた。ロシア軍は農地から3~5キロの距離まで近付き、パブロさんは「種まきや草刈りをしている時に砲撃されたこともあった」と語る。パブロさんの損失は約2億フリブニャ(約7億6000万円)にも上りそうだという。
戦時下で燃料や肥料などの価格が高騰していることも、営農に追い打ちをかける。ウクライナは小麦を中心に世界有数の食糧供給国だが、農業者を取り巻く環境は厳しさを増す。
パブロさんは「21世紀になっても発展や繁栄を追い求めるのでなく、破壊を選ぶとは恐ろしい。いつこの戦争は終わりを迎えられるのか……」とうなだれる。
南部ヘルソン州の警察当局によると、ロシア軍による農地への砲撃は断続的に続き、消火活動には危険が伴う。このため人員を大量に動員して火を消すことは難しく、ロシア軍の占領地では消火活動自体が許可されないケースもあるという。
警察当局は「ロシアは意図的に作物を破壊し続けている」として、戦争犯罪に関する国内法に基づき、捜査を進めている。