ロシアが穀物輸出の合意停止、黒海艦隊への「大規模な」攻撃を理由に
ロシア政府は29日、黒海に面した港からウクライナ産の穀物を輸出する国際合意への参加を停止すると発表した。
ロシアはこの直前、クリミア半島セヴァストポリに駐留しているロシアの黒海艦隊に、ウクライナが「大規模な」ドローン攻撃を仕掛けたと非難していた。
ウクライナ側は攻撃を否定している。同国のウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、ロシアの動きは「いささか想定内だ」と話した。
ロシアが侵攻を始めた2月以降に黒海を封鎖したことから、穀物輸出大国のウクライナに数百万トンの穀物が滞留し、世界的な食糧危機が危ぶまれていた。
その後、国連事務総長とトルコの仲介の下、7月に貨物船の安全航行や検査に関する合意文書が作成され、両国がそれぞれ署名。大きな外交的成功と評価されていた。
しかし、ロシアは自国の輸出が依然として妨げられていると主張し、合意を更新しない可能性を以前から示唆していた。
■攻撃にはイギリスも関係とロシア主張
ロシア国防省は、29日の攻撃は穀物合意に関わる船舶を狙ったものだと主張し、1隻が軽微な損傷を受けたと説明した。
その数時間後、ロシアの外務省は「ロシア側は『黒海イニシアチブ』に参加する民間貨物船の安全を保証できず、本日から無期限でその実施を停止する」と発表した。
ロシア政府は、ドローン16基が破壊され、機雷除去の掃海艇が持続的な損傷を受けたとしている。
一方で、旗艦のフリゲート艦が被害を受けたという報道もあり、ロシアの主張の真偽は定かではない。
ロシアはさらに、この攻撃にイギリスの部隊が関わっていたと、証拠を示さずに主張。「イギリスの専門家が率いるウクライナ軍の行動と関連している」と述べ、「この人道回廊の機能を確保するロシア船に(中略)向けられた攻撃だ」とした。
9月に起きた送ガスパイプラインの爆破についても、ロシアはイギリスの仕業だと述べている。
一連の主張について英国防省は、ロシアは「壮大なスケールの虚偽の主張を売り物にしている」と反論した。
ゼレンスキー大統領は、ロシアの合意参加停止はきょう決まったことではなく、9月に「ウクライナ産の食糧の輸送船の動きを阻害した」時から始まっていると指摘した。
また、「エジプトやバングラデシュの人々の食卓に食べ物が並ぶかどうかを、なぜロシア政府の一握りの人間が決めることができるのか」と述べ、主要20カ国(G20)や国連などによる強い国際的な措置が必要だと述べた。
米ホワイトハウスはロシアの発表について、「食糧を武器化している」と述べた。
国連の報道官は、国連はロシア政府と連絡を取っていると明らかにした。その上で、黒海穀物イニシアチブは、世界中の人々の食糧を確保するための重要な人道活動だと強調し、「黒海穀物イニシアチブを危険にさらすような行動を、全当事者が控えることが極めて重要だ」と述べた。
ウクライナ政府はこのところ、ロシアが意図的に船の航行を遅らせており、170隻以上が列を作っていると非難している。
■クリミア半島への攻撃
ドローン攻撃を受けたクリミア半島は、2014年にロシアが一方的に併合を宣言。ウラジーミル・プーチン大統領にとって非常に象徴的な場所となっている。
ロシアはクリミアに軍を集中させているが、ここ数週間で何度か攻撃を受けている。
セヴァストポリは地域最大の都市で、ロシアの黒海艦隊の母港になっている。
今年4月には、同艦隊の巡洋艦「モスクワ」が沈没。ウクライナは最新の対艦ミサイル「ネプチューン」2発を使った攻撃に成功したと説明している。対するロシア側は、弾薬の爆発で艦体が損傷し、その後「荒れた海」が原因で沈没したと主張している。
さらに10月には、半島とロシア本土をつなぐ唯一の橋で爆発があった。ロシア側は、この爆発で3人が死亡したと述べている。
(英語記事 Russia halts grain deal after ‘massive attack’)
(c) BBC News