参院選が公示され、街中にはさっそく多くの選挙カーが繰り出している。大音響で候補者名を連呼しながら走り回ったり、街頭演説の舞台になったりとおなじみの選挙カーもあれば、近年はラッピング車や車内が丸見えの新タイプも登場。選挙カーを使った選挙運動は日本特有の文化とされ、時代とともにその車体も独自の進化を遂げているようだ。(吉国在)
スピーカーやステージを搭載した車両が並ぶ選挙カーレンタル会社「イイダコーポレーション」(大阪府大東市)。選挙戦に突入し、慌ただしさを増す。
ステージ搭載の大型ワゴン車の料金は月約110万円と高額だが、所有すると維持費がかさむためレンタルが主流だ。選挙では奪い合いになり、最大約600台を貸し出す。「験担ぎで当選時と同じ車種を希望する場合が多いが、好みも変遷してきた」と担当者。
かつては乗用車にスピーカーを据え付けただけの仕様だったが、車体にスローガンをあしらったり、夜間に看板を光らせたりと人目を引くように工夫を凝らす。選挙運動員が手を出して振りやすいようにサイドウインドーを全開にできる改造など、さまざまな進化を遂げている。
神奈川県大井町の「グリーンオート」では、ガラス張り車両が人気だ。候補者の姿が有権者に一目で伝わり、雨天時などには車内で演説することもできる優れもの。担当者は「当選の確率が高いと人気が高い。今回の参院選ですでに予約はいっぱい」と語る。
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選挙カーの歴史は約70年前にさかのぼる。選挙運動史に詳しい国際医療福祉大の川上和久教授によると、日本独特のもので、公職選挙法が施行された昭和25年にはすでに登場。当時は車自体が高価だったため、珍しさから車上の演説に多くの聴衆が集まった。自動車が大衆化した30年代後半から一気に普及したという。
変革の風をもたらしたのが、平成19年の東京都知事選に出馬し、ガラス張りの選挙カーで政治の透明性を訴えた建築家の故黒川紀章(きしょう)氏の存在。「選挙カーそのものを政策を主張する手段にした点で画期的だった」(川上教授)。それ以降、環境保護をイメージするグリーン一色の選挙カーなど、政治的主張にちなむ奇抜な車体が現れ始めた。
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一方、選挙運動と有権者の心理を調べる関西学院大の稲増一憲(いなますかずのり)教授は「選挙カーの進化は公選法の制約に関連する」と指摘。同法は走行中の演説を禁じており、有権者に広く支持を訴えるため候補者名を連呼する手法が普及したとみる。
稲増氏は「名前の連呼は得票に一定の効果がある」としたうえで、「法の範囲内で工夫を重ねた結果、選挙カーは使いやすさやアピールなどの点で進化を遂げた」と話している。