G7広島サミット、岸田首相はなぜ8カ国を追加招待したのか
ローラ・ビッカー(広島)
もしも主要7カ国首脳会議(G7サミット)がディナーパーティーなら、ホストはガレージで伸縮式テーブルを探し、予備のテーブルマットやフォーク、ナイフなどがないか積み上げた箱の中をがさがさ探していることだろう。
なぜかというと、今年のホストの岸田文雄首相が、19日に広島で始まったサミットに、通常より8人多く招待したからだ。
このことは、ウクライナでの戦争から、私たちの食卓に食べ物がどれだけ届くのかに至るまで、今回のサミットがいかに厄介な議題山積かのあらわれだ。加えて、国際秩序の急速な変化も示している。話題の中心は、招待されていない2国、ロシアと中国だ。
毎年恒例のこの会議は、世界で最も裕福な民主主義国家7カ国(日本、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、カナダ、イタリア)が参加する。欧州連合(EU)は正式なG7メンバーではないが、代表を送る。近年の会議では、議長国が独自の判断でメンバー以外の国を招いている。
しかしながら、G7の経済的な影響力は弱まっている。国際通貨基金(IMF)によると、G7は1990年、世界のGDPの半分強を占めていた。それが今や30%弱に過ぎない。G7は、有力な新しい仲間を必要としているのだ。
そこで岸田氏は、欧米を超えた、より世界的な連合を求めて、テーブルを伸長した。テーブルをいつもより大きくして、オーストラリア、インド、ブラジル、韓国、ベトナム、インドネシア、コモロ(アフリカ連合代表)、クック諸島(太平洋諸島フォーラム代表)の席を設けたのだ。
岸田氏はここ1年半で16回、外国を訪れている。インド、アフリカ、東南アジアなどの国々に、中国とロシアの金や権力に代わるものがあると証明するために。
広島への招待国リストからは、「グローバル・サウス」と呼ばれる国々(アジア、アフリカ、中南米の開発途上国)をG7側に引き寄せようとの思惑がうかがえる。それらの国はどこも、政治的・経済的にロシアや中国と複雑なつながりがある。
■結束感に欠ける戦線
岸田氏は今回、ロシアのウクライナ侵攻に対する「統一戦線」を示すことをはっきりと目標に掲げている。だが、それはかなりの難題になるだろう。
G7は、ロシアの軍資金拡大につながるエネルギーや輸出品に対する制裁を強化しようとしている。
しかし、追加招待された国々の多くにとって、これは好ましい動きではない。例えばインドは、ロシアからの輸入品に対する西側の制裁に同調するのを拒んでいる。
インドは、ロシアのウクライナ侵攻を明確に非難してもいない。両国には長年の関係があり、インドにはエネルギーを輸入に依存しているという現実もある。同国は高価格での購入は無理だとし、ロシアからの原油購入の正当性を主張している。
これはインドにとどまらない。複数の新興国は、ウクライナでの戦争が一因のコスト上昇に大打撃を受けている。
新興国は、追加制裁によって、黒海を通じたウクライナ産穀物の輸出合意をロシアが打ち切ることを恐れている。もしそうなれば、食料不足は深刻化し、価格がさらに上昇する恐れがある。
他の国々にとっては、これは単に制裁の個人的代償にとどまらない。
「ヴェトナムは歴史的にロシアと密接な関係にあり、少なくとも兵器の60%と肥料の11%の供給を受けている」。シンガポールにある東南アジア研究所の客員研究員、グエン・カク・ジャン氏は、こう指摘する。
「インドネシアは、ロシアへの依存度は大きくはないが、ロシアの兵器の重要な輸入国で、ロシアと良好な関係を維持している」
「こうした理由からヴェトナムとインドネシアは、ロシアへの追加制裁に明確に異議を唱えることも支持することもしないだろう。仮にそうしたとしても、経済的・政治的に大きなリスクを負う一方で、利益はほとんどない」
岸田氏は、10万人以上が死亡した被爆地・広島でG7を開くことによって、参加者がロシアの核の脅威を強く意識すると、期待しているはずだ。
岸田氏の政治地盤でもある広島を訪れれば、核兵器がもたらす惨状を常に考えることになる。そうした兵器が二度と使われないようにする責任が、この街に招かれた人にはあるのだと、そのメッセージも強調される。
さらに、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領からの圧力もある。ゼレンスキー氏は首脳会議にオンラインまたは対面で出席し、すでに多大な代償を払った自国民のため、強い気持ちを込めて嘆願するとみられている。
しかし、制裁をどこまで強化するかをめぐる意見対立は、解消されないかもしれない。また、G7以外の国々には、自分たちの声が西側にあまりにも無視されがちだとの不満が高まっている。それでもアナリストらは、そうした国々の声に耳を傾け、パートナーとして扱うことが、少なくとも第一歩になると考えている。
前出の東南アジア研究所のジャン氏は、ヴェトナムとインドネシアについてこう言う。「(広島サミットは)それらの国々がさまざまな問題についてG7首脳に懸念を伝えるいい機会となる。ウクライナでの戦争、世界経済の減速、東アジアの安全保障リスク、そして特に南シナ海での問題や台湾情勢についてだ」。
■中国への対抗
台湾は昨年、周辺海域での緊張の高まりも含め、最大の危機の一つとなった。
岸田氏はアジア唯一のG7メンバーの指導者として、今回のサミットを、台湾周辺における中国の軍事力強化に対処するチャンスと捉えている。日本が西側に向けて発するメッセージは明快だ。「ウクライナでのあなたたちの戦いは、私たちの戦いでもある。しかしそれは、双方向に機能しなくてはならない」というものだ。
しかし、世界のサプライチェーンに事実上組み込まれている中国は、おそらくロシアよりも厄介な相手だ。
先日、北京を訪問したフランスのエマニュエル・マクロン大統領は、ヨーロッパが「自分たちのものではない危機に巻き込まれる」べきではないと警告した。この言葉は西側で少し騒がれたが、東アジアでも、見捨てられることに対する根強い恐怖心がよみがえった。
アメリカのリンジー・グレアム上院議員(共和党)の発言を思い出す人も多いだろう。同国と北朝鮮との緊張がかなり高まっていたころ、グレアム氏は「数千人が死ぬとしたら、向こう(北朝鮮)で死ぬことになる」と警告した。その後、ドナルド・トランプ大統領(当時)が在韓米軍を削減すると脅しをかけた。
中国の声がはっきりと聞こえるのは、西側の民主国家とは異なり、その立場が選挙のたびに変わることがないからだとアナリストらは言う。
もちろんアメリカもこの1年、ウクライナ支援や台湾への関与において揺らぎは見せていない。同盟国の日本、韓国、フィリピン、オーストラリアと共同で、太平洋で軍事演習を行ってきた。
しかし、G7は中国の軍事的野心だけを批判対象にしているわけではない。中国の「経済的威圧」についても懸念している。中国は自国に批判的とみなした行動に対し、報復に出ている。2019年のオーストラリアからの輸入削減や、2017年の韓国企業を標的にした措置はその例だ。
G7の対抗措置がどのような形になるのか、あるいはEUのパートナーたちと一緒に行動することで合意できるのかさえ、現時点では不明だ。どうあれ、日本もEUも中国を最大の貿易相手国として頼りにしているという現実がある。
だが、さらに難しいのは、他の国々を同調するよう説得することだろう。グローバル・サウスの多くが、中国とより強力な経済的関係をもっているからだ。
例えば、中国と中南米の貿易は拡大している。中南米の国内総生産(GDP)の8.5%を中国が占め、ブラジルなどは対中貿易が黒字だ。一方、アフリカではガーナやザンビアなどの国々が中国に多額の債務を負っており、融資の返済に苦しんでいる。
中国はG7主導の取り組みに対し、意見を明確にしている。中国外務省の汪文斌報道官は先週、「中国自身がアメリカの経済的威圧の被害者であり、他国による経済的威圧には常に断固として反対してきた」と述べた。
■新たな戦場
影響力をめぐる戦いが今も繰り広げられている地域がある。太平洋諸島だ。太平洋諸島諸国を代表する小さな国、クック諸島が招待されたのはそのためだ。
気候変動による影響が極めて大きいこれらの島しょ国は、自国の戦略的重要性をアメリカと中国の双方に対して使っている。
中国は昨年、ソロモン諸島と安全保障条約を締結。この地域に軍事基地を建設するのではないかとの懸念が高まった。これにアメリカはすぐ対応。地域の14カ国と8億1000万ドルの資金援助を含む協定を結んだと発表した。
岸田氏の連合体構築の努力は、G7が気候変動やエネルギー安全保障への対応でどう合意するかにもかかっている。それが、ロシアの石油やガス、あるいは中国の援助に対する、地域の国々の依存度を下げることにつながるからだ。
しかし、すでにほころびもうかがえる。アメリカのジョー・バイデン大統領はサミット終了後、パプアニューギニアに飛び、太平洋諸島を訪問する初の現職米大統領になるはずだった。
しかし、アメリカの債務上限をめぐる危機を理由に、太平洋諸島訪問は取りやめになった。アジア・ソサイエティ政策研究所のシニアフェローで、元オーストラリア情報当局トップのリチャード・モード氏は、これは後退だと指摘する。
「この地域では、姿を見せることがすべてだ」とモード氏は最近のパネルディスカッションで話した。「姿を見せることが戦いの半分だ。中国は常に姿を見せており、それからすると、形勢はあまり良くない」。
(英語記事 Why G7 has eight more seats at the table this year)
(c) BBC News