「滅敬」と名乗り、瀬名の元にやってきた穴山海雪。以後、信長・家康との距離を縮めていくことに(甲越勇將傳武田家廾四將:穴山伊豆守信良(歌川国芳作)/CC-PD-Mark/WikimediaCommons)
松本潤さん演じる徳川家康がいかに戦国の世を生き抜き、天下統一を成し遂げたのかを古沢良太さんの脚本で巧みに描くNHK大河ドラマ『どうする家康』(総合、日曜午後8時ほか)。第23回では、瀬名(有村架純さん)が、武田の使者・千代(古川琴音さん)と密会していると知った五徳(久保史緒里さん)は、信長(岡田准一さん)に密告する。すると信長は、水野信元(寺島進さん)が武田と内通していると言いがかりをつけ――といった話が展開しました。
ドラマで家康の妻・瀬名の元を訪れた穴山梅雪
一方、歴史研究者で東大史料編纂所教授・本郷和人先生が気になるあのシーンをプレイバック、解説するのが本連載。第42回は「男女の奇しき因縁」について。この連載を読めばドラマがさらに楽しくなること間違いなし!
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◆築山殿と滅敬の関係
前回、覚悟を決めた築山殿(瀬名)が千代に「あなたの頭を呼んで来い」と指示。武田の使者として「滅敬(めっけい)」と名乗る唐の医者がやってきたところで、ドラマは幕を下ろしました。嵐を予感させる終わり方でしたね。
この人の名前を「減敬(げんきょう)」とする資料もあります。
甲州浪人とも中国人の鍼医ともいわれ、ともかくよく分からないというか、とにかく胡散臭い。
武田の連絡役として描かれることが多いのですが、おおむね「築山殿を悪女にしたい」資料では、彼女とこの滅敬さんが男女の関係にあった、としています。
今回の演出では、滅敬の正体は穴山梅雪でした。これは新しい解釈ですね。
梅雪といえば、武田家の柱石です。かつてはあんまりモテなそうなおじさんに造形されていましたが、大河ドラマ『真田丸』では天下のイケメン、榎木孝明さんが演じ、「アナ雪さん」と呼ばれて人気を博しました。それで流れが代わったのかな。今回の田辺誠一さんもかっこいいですよね。
◆武田氏に対して相対的な自立を確保していた穴山氏
甲斐国は地理的に、東部の郡内(現在の都留市など)と中・西部の国中とに二分されていました。これは山梨県となった今でも変わりません。また国中でも南部を河内(現在の南部町、身延町など)として郡内・国中・河内に三分することがありました。
室町時代には、郡内に小山田氏、河内には穴山氏が勢力をもっていました。戦国時代になると両者は一応、武田氏に臣従するわけですが、依然として相対的な自立を確保していたといいます。
実際、長篠の戦いで信玄以来の重臣が戦場に斃れる中、小山田信茂と穴山梅雪は退却に成功し、生存しています。戦いぶりに差があったのでしょうね。