近年、QRコード決済や電子マネーなど、キャッシュレス決済の導入が多くの店舗で進められています。しかし、QR決済を主要な支払い方法とする事業者の中には、「売上の入金までに時間がかかり、仕入れや運営費用をまかなう資金繰りに苦慮している」という声が少なくありません。本記事では、QR決済の現金化が遅れる根本的な理由を深掘りし、現金払いのみの営業に戻すべきかという疑問に対するメリット・デメリット、そして効果的な資金繰り対策について詳細に解説します。
なぜQR決済の現金化は遅いのか?
QRコード決済は顧客がスマートフォンアプリを通じて店舗のQRコードを読み取ることで支払いが完了しますが、現金払いとは異なり、実際に店舗の口座へ入金されるまでにタイムラグが生じます。この「時差」は、主にQR決済サービスを提供する運営元の「締め日」と「入金日」のサイクルに起因しています。
例えば、国内大手2社の支払いサイクルを比較すると、以下のような違いが見られます。
- A社: 月末締め、翌営業日または翌々営業日に振込
- B社: 入金サイクルは選択制(月1回から最短翌営業日まで)
このように、顧客からの支払いが完了してから実際に事業者の手元に現金として入金されるまでには、数日から数週間かかるのが一般的です。売上が即日で手元に入る現金決済とは異なり、「手元にある資金」で仕入れや人件費などの運転資金を賄う必要がある店舗にとって、この入金サイクルの遅れはキャッシュフローの乱れに直結し、経営上の大きな課題となり得ます。
QRコード決済に対応する店舗の様子、キャッシュレス決済の普及と課題
現金のみの営業に戻すべきか?メリットとデメリット
QR決済の現金化の遅さに悩む場合、「いっそのこと現金払いのみの営業に戻した方が良いのでは?」と考える事業者もいるかもしれません。ここでは、現金払いに一本化することのメリットとデメリットを詳しく見ていきましょう。
現金払いのみにするメリット
現金払いのみに統一する最大の利点は、売上が即座に現金として手元に入る「即時現金化」が可能な点です。これにより、資金繰りの計画が立てやすくなり、材料の仕入れや固定費の支払いを滞りなく行えるようになります。また、多くのキャッシュレス決済サービスで発生する決済手数料や振込手数料といったコストを完全に排除できる点も大きなメリットです。特に決済手数料は売上の2~3%を占めることが多く、これらのコスト削減は経営の負担軽減に直結します。
現金払いのみにするデメリット
一方で、現金払いのみに回帰することには複数のデメリットが存在します。最も大きな懸念は、「キャッシュレス志向の顧客層を逃す可能性」です。特に若年層や訪日外国人観光客の多くはキャッシュレス決済を前提として消費行動を行うため、決済手段の限定は来店機会の損失につながりかねません。
さらに、現金のみの対応は「現金管理の手間とリスク」を増加させます。レジ締めや釣り銭の準備といった業務に加え、盗難リスクや偽札への対応など、防犯上の配慮も一層求められます。また、現金に付着している可能性のある菌やウイルスに触れる機会が増えるため、衛生管理の観点からも注意が必要です。これらのデメリットは、店舗の運営効率や顧客体験、さらには安全性にも影響を及ぼす可能性があります。
キャッシュフロー改善のための選択肢と対策
QR決済の入金遅延問題に対し、安易に現金払いのみに戻すのではなく、複合的な視点からキャッシュフロー改善策を検討することが重要です。
- 複数の決済サービスを併用する: QR決済だけでなく、クレジットカードや他の電子マネーなど、複数のキャッシュレス決済を導入することで、顧客の利便性を高めつつ、決済手段ごとの入金サイクルを分散させることが可能です。
- 入金サイクルの交渉・確認: 利用している決済サービス提供者に対し、より短い入金サイクルが選択できないか、または交渉が可能かを確認しましょう。一部のサービスでは、売上規模に応じて柔軟な対応をしてくれる場合があります。
- 運転資金の確保と管理: 定期的なキャッシュフロー予測を行い、仕入れや経費支払いに必要な運転資金を常に手元に確保しておくことが肝要です。急な資金ニーズに対応できるよう、短期的な融資枠やクレジットラインの検討も有効な手段となり得ます。
- 経費の見直しと削減: 固定費や変動費を定期的に見直し、無駄な支出を削減することで、手元に残る現金を増やす努力も重要です。
結論
QR決済の現金化の遅れは、特に小規模事業者にとって深刻な資金繰りの問題を引き起こす可能性があります。しかし、安易に現金払いのみの営業に戻すことは、顧客層の限定や管理コストの増加、さらには衛生リスクといった新たな課題を生み出す恐れがあります。
事業者は、自店の顧客層、運営体制、そして資金状況を総合的に判断し、QR決済の特性を理解した上で、複数の決済手段の併用や厳格な資金管理、そして場合によっては入金サイクルの見直し交渉など、多角的なアプローチでキャッシュフローの改善に取り組むことが求められます。これにより、キャッシュレス化の恩恵を享受しつつ、安定した店舗経営を確立できるでしょう。
参考文献
- 金融関連情報サイト
- 決済サービス事業者公開情報