トランプ米大統領が日米安全保障条約は「不公平」と異を唱え、日米に波紋が広がった。トランプ氏の真意は別として、日米安保は米軍だけが対日防衛義務を負う構造から「安保ただ乗り論」との対日批判に発展しやすい。一方、条約では日本は極東地域の安定のため米軍に基地を提供すると定めており、日本政府は「義務のバランスは取られている。片務的ということは当たらない」(菅義偉官房長官)という立場だ。
日本が負担している在日米軍駐留経費は米国の同盟国の中でも突出しており、米国防総省が2004年に公表した報告書によると、02年の日本の負担割合は約75%にも及んだ。米国は同報告書の公表をそれ以降は見送っているが、防衛大の武田康裕教授の調査によると、15年に63%に落ち込んだ後、17年には再び70%にまで上がっている。日本は今年度予算で約5900億円の米軍駐留関連費を計上し、地代や周辺対策費などに充てている。
また、米軍専用施設の面積の7割が集中する沖縄で特に著しいが、米軍に基地を提供している「主権の制約」も日本は負っている。安倍晋三首相は「日本の基地があるから米国は世界で彼らの権益を守りつつ、平和と安定を守っている。双務性があると説明し、トランプ氏も納得している」と首脳間の共通認識であることを強調する。
だが、トランプ氏の「応分の負担」という要求に応じて見直す場合、自衛隊と米軍の役割分担はどのような形が想定されるのか。
武田氏は「日米同盟を基軸としつつ、米軍が担っている機能の一部を自衛隊が担い、同時に主権の制約を軽減することが現実的だ」と提起する。武田氏は著書『日米同盟のコスト-自主防衛と自律の追求』(亜紀書房)で、自衛隊が肩代わりする任務として「弾道ミサイル防衛」「シーレーン(海上交通路)防衛」「島嶼(とうしょ)防衛」の3つを挙げ、必要な年間費用を約1兆6589億円と試算した。
弾道ミサイル防衛では米軍に依存するミサイル探知・追尾能力や敵基地攻撃能力を備えるため、早期警戒衛星や電子戦機などを導入する。迎撃能力向上のための「終末高高度防衛(THAAD)ミサイル」や被害を最小化する国民保護の充実など約5675億円が必要と見積もった。
シーレーン防衛では、軽空母を中心とする3個機動部隊の配備などを通じ、インド太平洋をカバーする米海軍第7艦隊の任務を可能な限り代替する必要性を指摘した。必要経費を約8830億円と試算した。
島嶼防衛では約2084億円を投じ、新たに揚陸艦や輸送艦を導入するなど離島奪還を任務とする水陸機動団の即応能力を強化する。同時に、沖縄県の米軍基地の施設管理を自衛隊が引き継ぎ、日米共同使用にして主権制約を軽減する。
総額1兆6589億円は対国内総生産(GDP)比0・3%分に相当する。現在の防衛費のGDP比は約1%のため、上乗せすれば1・3%程度となる。武田氏は「大切なのは、同盟と自主防衛の最適なバランスを模索する姿勢だ」と指摘している。(石鍋圭)