【解説】 NATOがウクライナに示した現実 「何でも手に入るわけではない」


【解説】 NATOがウクライナに示した現実 「何でも手に入るわけではない」

【解説】 NATOがウクライナに示した現実 「何でも手に入るわけではない」

北大西洋条約機構(NATO)首脳会議が12日、閉幕した。ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領が英ロックバンド「ローリング・ストーンズ」のファンなのかはわからないが、彼らの曲「You Can’t Always Get What You Want(欲しいものが常に手に入るわけではない、邦題「無情の世界」)の境地にあることだろう。

ゼレンスキー氏は大きな期待を抱え、首脳会議(サミット)開催地のリトアニア・ヴィリニュスに乗り込んだ。

ロシアとの戦争が終われば、ウクライナはNATOに加盟できるという保証を求めていた。世界最強の軍事同盟への加盟を、国民の希望の光にしたかった。ロシア軍に二度とウクライナ領土を強奪させないことを確実にする、究極の「平和の配当」にしたかった。

しかしゼレンスキー氏は、「加盟国が同意し条件が満たされれば」加盟国になれると告げられただけだった。はっきりしない態度を示された。

当然ながら、ゼレンスキー氏は激怒した。加盟の日程さえ示さないのは「ばかげている」とNATO指導者らを非難した。「条件」が何なのかも「あいまい」だと訴えた。

そして、ウクライナの加盟はロシアとの戦後の交渉で取引材料になりうるという発想にも、怒り心頭に発していた。

だが、ゼレンスキー氏がNATO指導者らといったん顔を合わせると、外交的な騒ぎは収まった。12日になると加盟国首脳らはこぞって、状況は変わった、ウクライナはNATOに加盟できると、もろ手を挙げてゼレンスキー氏に請け合った。

イギリスのリシ・スーナク首相は、ウクライナはNATOに属していると述べた。NATOのイェンス・ストルテンベルグ事務総長は、ウクライナとは12日には対等な相手として会ったが、将来は加盟国同士として顔を合わせることになるだろうと述べた。ウクライナの加盟に関するNATOの公式発言を懸命に限定してきたアメリカのジョー・バイデン大統領も、加盟は実現するとゼレンスキー氏に伝えた。そして、ウクライナは正しい方向に進んでいると言った。

イギリスのベン・ウォレス国防相は、ウクライナはNATOの一員であるべきだと文化的に受け入れられていることが、今回のサミットで示されたと強調。ウクライナの加盟の是非を問う国はもはやなく、残る問題は加盟の時期だけだとした。

ゼレンスキー氏は、これだけの温かい言葉をたくさん土産袋に詰めて、サミット会場からウクライナに帰ることになった。

ゼレンスキー氏は温かな言葉だけでなく、具体的な成果も得た。NATO加盟手続きの簡素化を約束された。「NATO・ウクライナ理事会」が創設され、ウクライナがNATOの会合を招集できるようになった。さらに、おそらく最も重要なこととして、世界有数の大国首脳らから新たな長期安全保障が約束された。

主要7カ国(G7)の首脳は、ウクライナがNATO加盟前にロシアに侵攻されないようにするため、ウクライナへの軍事的・経済的支援に関する新たな2国間保証の包括案に合意するとした。これには、防空システム、長距離ミサイル、戦闘機の増強や、訓練、情報共有、サイバー技術の支援が含まれる。ゼレンスキー氏はこれを「安全保障上の重要な勝利」と呼んだ。

こうしたなかウォレス英国防相からは、全体の雰囲気とやや感じが異なる発言が出た。記者団に対し、ウクライナはNATOがすでに与えている支援について、もっと感謝を表明すべきだと述べたのだ。

■現実認識の機会となったか

これは、外交的でない不快感をつい口にしたわけではなく、支援を惜しまない同盟国からの率直な助言だった。ウォレス氏は、アメリカを筆頭とする軍事支援国にかかっている政治的圧力を、ウクライナはもっと理解しようとすべきだと言っていたのだ。アメリカをアマゾンの支店のようにみなし、武器の買い物リストを手にワシントンを訪れるなら、どうしても「文句」が出るだろうと指摘したのだった。

当然ながら、この発言はサミットの場でちょっとした波紋を呼んだ。

NATOの結束を示すのが会議の狙いだったことからすると、確かに外交的な発言ではなかった。スーナク英首相は、ウクライナが常に感謝を表しているとして、この発言を公に否定した。ゼレンスキー氏は記者会見でこの発言について問われると、困惑した表情を見せ、脇にいたウクライナ国防相に対し、ウォレス氏に電話して真意を尋ねるよう求めた。

このやりとりは、NATOや英政府が後悔することになるかもしれない、記事見出しに多少つながるだろう。

しかし、ウォレス氏は無意識のうちに、この戦争における興味深い側面にスポットライトを当てたのかもしれない。

ほぼ1年半にわたり、西側の政府はウクライナの要求を聞き入れ、その大部分に応じてきた。ウクライナは決して満足せず、常に追加の要求を重ねてきた。西側諸国は結局、肩に乗せて発射する携行型ミサイルから装甲車、主力戦車、そしてついにクラスター弾まで提供している。

とはいえ、サミットでは「だめなものはだめ」ということもはっきりした。アメリカ主導の同盟であるNATOは、ウクライナが求めていた自動的な早期加盟は認めず、戦略的に慎重な姿勢を取ることを選んだ。

ゼレンスキー氏にとっては、西側諸国が国内政治の圧力に苦しみ始めていて、それが自分を取り巻く今後の世界的な政治環境を形づくっていくのだと、外交上の現実を認識する機会となったかもしれない。そして、欲しいものは常に手に入るわけではないと、知る機会になったのかもしれない。

(英語記事 Nato shows Ukraine it can’t get everything it wants)

(c) BBC News



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