多くのメディアがプーチン政権の統制下にあるロシアで、政権批判を含む客観報道を続けてきた経済紙「ベドモスチ」と「RBK」の2紙が存続の危機に立たされている。ベドモスチは外部から登用された新編集長が政権批判を禁じ、反発した副編集長らが一斉退職。RBKは国営企業から巨額の賠償訴訟を起こされた。こうした動きの背後には、支持率低下に危機感を抱くプーチン政権の意向が働いているとの観測が強い。今後、露メディアの言論の画一化がさらに進むことが懸念されている。(モスクワ 小野田雄一)
■ある編集者の告発
ベドモスチは経済紙ながら政治記事も重視。社説などでプーチン政権の強権的な統治手法や軍国主義的な政策を批判してきた。発行部数は約7万部と決して多くはないが、政権におもねらない姿勢で存在感を示していた。
しかし今春、同紙の売却話が持ち上がり、同時期に親政権誌「エクスペルト」の創立者の一人であるジャーナリスト、シマロフ氏が編集長代理に着任した。詳しい経緯は不明ながら、一連の売却交渉のなかで浮上した人事だったとみられる。これが同紙の「変質」への一歩となった。
「シマロフ氏は現場に対し、『プーチン大統領の任期数を帳消しにする憲法改正を批判する記事や、独立系調査機関レバダ・センターの世論調査の記事を掲載するな』と命じた」
同紙の編集者、ボレツカヤ氏は4月22日、フェイスブック(FB)上で、こう暴露した。
事情はこうだ。
ロシアの現行憲法は「大統領は連続2期まで」と規定しており、本来であれば現在2期目のプーチン大統領は2024年の大統領選に出馬できない。しかし、今年始まった改憲プロセスで、プーチン氏の過去の任期数をリセットし、次期大統領選への出馬を可能にする内容が盛り込まれた。新憲法は7月1日の国民投票で投票者の過半数が賛成すれば施行されるのだが、レバダ・センターによる調査では、「回答者の47%が任期数のリセットに反対した」などとする結果が示されていたのだ。
シマロフ氏の「現場介入」は、政権にとって不都合な情報が表に出てきた中で起きたものだった。
■ベテラン編集者が一斉に退職
ボレツカヤ氏のFBでの告発によれば、シマロフ氏は「大統領府はレバダ・センターの世論調査がベドモスチに掲載されるのを望んでいない。ベドモスチが生き残りたいなら、大統領府の希望を聞き入れる必要がある」とも話したという。つまり、シマロフ氏の命令には、政権の意向が働いている可能性が色濃くにじんでいたのだ。