CT検査を“すり抜ける”5ミリ以下のがんも見逃さない「リキッドバイオプシー」 少量の採血で高精度検出

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血液に浮かぶ微量のがんDNAを診断するリキッドバイオプシー

 《患者の身体的負担減》

 「リキッドバイオプシー」という言葉をご存じでしょうか?リキッドは液体(血液)、バイオプシーは生検(組織を採取して診断すること)を意味します。リキッドバイオプシーとは、少量の血液からがん細胞(またはその一部)を検出し、がんの存在を診断する技術です。近年、米国ナテラ社が開発したシグナテラという検査により、少量の血液からがんのDNAを高感度に検出し、身体に潜むがん細胞を高い精度でいち早く検出することが可能となりました。米国ではシグナテラを用いたリキッドバイオプシーが広く臨床で応用されています。

 これまでは内視鏡やCT検査で腫瘍を見つけ、直接組織をとってがん細胞を証明していました。少量の採血で高精度にがんを検出するリキッドバイオプシーは、効率がよく、患者さんの身体的負担も軽くすみます。今日はこのリキッドバイオプシーについて解説します。

 《米国で進む臨床応用》

 「先生、先月手術したナンシーさんのリキッドバイオプシーですが、まだ陽性です」

 研修医が顔色を曇らせて報告に来ました。ナンシーさんは大腸がんの手術後、1カ月です。手術は成功し、無事にがんは取り切れました。切除された大腸がんはリンパ節転移のないステージ2で、抗がん剤の追加も必要ありません。通常であれば、がんが取り切れたと判断し、6カ月後にCT検査でフォローとなります。

 しかし、私の働くMDアンダーソンがんセンターでは、大腸がんの手術を受けた全ての患者さんに対して、術後1カ月目のリキッドバイオプシーを行い、血液中のがんDNAを調べます。ナンシーさんの血液を調べると、手術でがんは取り切れたはずなのに、血液中のがんDNAが陽性と分かりました。

 手術後1カ月たってもがんのDNAが血液に浮いているということは、まだ体のどこかにがんが潜んでいる、つまりごく早期の小さな転移がどこかにあることを強く疑います。そこで急きょCT検査を行いましたが、どこにも異常は見つかりません。CT検査は最低でも5ミリ程度の大きさにならないと転移は見つかりませんので、リキッドバイオプシーの方がCTよりもずっと早い段階で転移を検出することはよくあります。

 ナンシーさんの場合、さらなる精密検査を進めた結果、肝臓に数ミリのごく小さな転移があることが分かりました。そこで抗がん剤治療を加え、手術で肝転移を切除したところ、血液のがんDNAはめでたく陰性になりました。半年、1年後に大きくなるまでCT検査では検出できなかっただろう肝転移を、リキッドバイオプシーで早期発見し、早期治療することができたのです。

 《日本の臨床研究貢献》

 米国で大腸がんの手術後に広くリキッドバイオプシーが用いられている理由の一つに、日本で行われた臨床研究が大きく貢献しています。大腸がんの手術後1カ月目の血液中のがんDNAと、がんの再発の関係を調査した世界最大規模の研究です。術後1カ月目の血液がんDNAが陽性だと、がんの再発が10倍以上のリスクで跳ね上がり、抗がん剤を加えるとその再発リスクが低下することが示されたのです。

 この結果はMDアンダーソンをはじめ米国で大きな反響を呼び、2023年1月に「Nature Medicine」という権威ある医学誌に成果が発表されました。日本ではコストの問題もあって保険医療でカバーされていませんが、米国では保険も利き、患者さんの費用負担もありません。今後、さらなる技術開発が進めばコストも低減し、日本をはじめ全世界で広く使われるようになると思います。

 《細やかな個別化医療》

 これまでの医療では、がんの再発リスクを予想するのに、手術で取ったがん組織を顕微鏡で調べて、がんの広がり(ステージ)を評価し、再発リスクを判定していました。例えば、リンパ節転移があれば再発リスクが高いので、抗がん剤治療を追加していました。しかし、実際にはリンパ節転移がなくても再発したり、逆にリンパ節転移があっても再発しないことはよくあります。がんの再発をもっと正確に予想することは大きな課題でした。

 リキッドバイオプシーで、手術後に体内に残るミクロながん細胞がより正確かつ早期に検出されるため、追加で抗がん剤が必要な患者さんを正確に拾いあげることができます。このような個別化治療は、リスクの高い患者さんの再発を抑えるだけでなく、リスクの低い患者さんに不要な抗がん剤を省くことにもつながります。

 次回は、大腸がんに関わる食生活と習慣について解説します。

 ◇小西 毅(こにし・つよし)1997年、東大医学部卒。東大腫瘍外科、がん研有明病院大腸外科を経て、2020年から米ヒューストンのMDアンダーソンがんセンターに勤務し、大腸がん手術の世界的第一人者として活躍。大腸がんの腹腔鏡(ふくくうきょう)・ロボット手術が専門で、特に高難度な直腸がん手術、骨盤郭清手術で世界的評価が高い。19、22年に米国大腸外科学会Barton Hoexter MD Award受賞。ほか学会受賞歴多数。

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