中古F-16を巡る争奪戦、ウクライナはアルゼンチンに譲ってくれと訴える

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ウクライナはオランダやデンマークが保有するF-16が提供されるものと期待していたが「デンマーク保有のF-16がアルゼンチンに売却される可能性」が浮上、キーウのシンクタンクはアルゼンチンの新聞に「F-16を譲ってくれ」と訴えている。

オランダとデンマークが手放すF-16を狙っている国(企業)はアルゼンチン以外にもいるかもしれない

ウクライナのレズニコフ国防相は7月「F-16でウクライナ人パイロットを訓練する連合が公式に結成され、11のパートナー国が訓練条件に関する覚書に署名した」と発表、この連合を主導しているのはデンマークとオランダで、カナダ、英国、ポルトガル、ベルギー、ルクセンブルク、ノルウェー、スウェーデン、ポーランド、ルーマニアも連合に参加しており、8月中にデンマークとルーマニアで訓練を開始する予定だと報じられているが、誰がウクライナに機体を提供するのかは何も決まっていない。

中古F-16を巡る争奪戦、ウクライナはアルゼンチンに譲ってくれと訴える

出典:Oleksii Reznikov

最も期待値が高いのはF-35Aへの更新が進んでいるオランダで、1992年までに計213機のF-16A/Bをオランダ空軍は取得したものの、冷戦終結を受けて戦闘機戦力は68機(現役機として維持されたF-16A/BはMLU規格にアップグレードされF-16AMに)まで削減、F-35Aの取得が始まるとF-16を運用する飛行隊の縮小が始まり、余剰機も2020年までにチリ×37機、ヨルダン×21機、ベルギー×1機へ売却され、他にも展示機、教育機材機、スペアパーツといった用途と事故で100機が失われている。

7月時点でオランダ空軍が保有しているF-16AMは「現役機として本国に配備されている24機」「運用から外され保管中の18機」「訓練のため米国に配備されている12機」の計54機で、2021年にオランダと米Drakenは米国に配備されているF-16AMの売却(+28機の追加購入に関するオプションを含む)で合意したものの、機体の状態が思わしくなかったため米Drakenとの合意内容は12機→6機(ベルギーで引き渡し前のオーバーホール中)に削減されてしまった。

中古F-16を巡る争奪戦、ウクライナはアルゼンチンに譲ってくれと訴える

出典:Aldo Bidini/GFDL 1.2 オランダ空軍のF-16AM

つまり買い手が決まっていないF-16AMが46機で存在するため「オランダがウクライナにF-16を提供する可能性が高い」と噂されているのだが、本当に8月中に訓練が開始されて6ヶ月後に訓練が終わったとしても「オランダが直ぐにF-16提供できる」という意味ではないので注意が必要だ。

本国に配備されている24機をF-35Aで更新するのは2024年末の予定で、保管中の機体も倉庫から引き出せば「直ぐに飛行できる」という状態ではなく、米Drakenが引き取りを拒否した機体も状態が悪いため、どの機体をウクライナに提供するにしても「引き渡し前のオーバーホール」が必要だが、仮に「整備待ちの列の最後尾」に並ぶ必要があっても「最も早くF-16を手に入れるためのオプション」であることに間違いない。

中古F-16を巡る争奪戦、ウクライナはアルゼンチンに譲ってくれと訴える

出典:Public Domain

もう一つの可能性はデンマークで「F-16AMの退役を2027年から2025年に変更する」と発表、これを受けて「ウクライナにF-16AMを提供するため退役を前倒したとのではないか」と噂されていたが、アルゼンチンのLa Nación紙は先月末「バイデン政権が議会にアルゼンチンへのF-16売却を通知した」と報じており、実際の通知内容は「デンマークが保有する38機のF-16AMを3億3,870万ドルでアルゼンチンに売却する」というもので、議会が反対しなければデンマークのF-16AMは全てアルゼンチンに売却されることになる。

この報道を受けてキーウに拠点を置くシンクタンク「民主イニシアチブ財団」はLa Nación紙に記事を寄稿、この中で「ウクライナとアルゼンチンはデンマークが保有するF-16の入手で競合しているが、3つの理由でデンマークのF-16をウクライナに譲ってほしい」と訴えていて中々興味深い内容だ。

中古F-16を巡る争奪戦、ウクライナはアルゼンチンに譲ってくれと訴える

出典:Mike Freer/GFDL 1.2 ウクライナ空軍のTu-22

“1つ目の理由はウクライナには選択肢も時間もないが『アルゼンチンにはそれがある』という点だ。ウクライナは世界第3位の核戦力(核弾頭1,900発+これを運搬するTu-160、Tu-95、Tu-22、Kh-555)を保有していたが、これを米英露の説得に応じて破棄してしまいロシア軍の侵攻を招いてしまった。もし説得や圧力に屈せず『独自の決断』を下していれば侵攻リスクはもっと低かっただろう。現在のウクライナには残念ながら選択肢も時間もなく、デンマークが保有するF-16は我々にとって非常に重要なものだ。もし過去に戻れるなら独自の選択肢を選ぶだろう”

“2つ目の理由は戦場での優位性においても費用対効果の面でも『中古のF-16はアルゼンチンにとってベストの選択肢ではない』という点で、我々は旧式のMiG-29を使用しているが、この機体が提供できる能力は相対的に低下し続けており、これを元の水準に戻すのは不可能だ。中古のF-16も旧ソ連機と同じぐらい古く、米国やNATOはF-16をF-35Aで更新しようとしている。つまりF-16のエコシステムは今後縮小していくため運用・維持で支障をきたすことになるはずだ。しかしウクライナは無償でF-16を受け取ることができ戦場で消耗されるため問題がなく、アルゼンチンは航空戦力を調達する上で費用対効果を考えなければならない”

中古F-16を巡る争奪戦、ウクライナはアルゼンチンに譲ってくれと訴える

出典:Public Domain ウクライナ空軍のMiG-29

“3つ目の理由は『アルゼンチン社会に訴える我々の感情的な主張』で、ラテンアメリカの主要国でG20のメンバーであるアルゼンチンは、幾つかの大国が安全保障と国際法を無視する状況において本当に重要なパートナーだ。そのため英国も政策を見直し始めており『アルゼンチンへのF-16売却』を容認するかもしれない。しかしウクライナは占領地を解放して、国民を戦争犯罪から救い、ロシアに連れ去られる子どもを助けるためデンマークのF-16を必要としている”

“アルゼンチンには時間と選択肢があり、デンマークのF-16以外の選択肢=新造機(過去の導入候補から言えばJF-17かテジャスMK.1Aということになる)を選んでくれれば、費用対効果が優れるため資金を節約でき、ウクライナ支援に置いても大きく貢献できるはずだ”

中古F-16を巡る争奪戦、ウクライナはアルゼンチンに譲ってくれと訴える

出典:Public domain パキスタン空軍のJF-17

ウクライナの必死さは十分伝わってくるものの、特に主張の2つ目は「アルゼンチンの置かれた状況に即していない都合の良い話=F-16のエコシステムは最低でも2060年まで維持される見込みで、F-16AMの能力が旧ソ連機と同じレベルなら、これで戦況が変わるというウクライナ軍の主張ともマッチしない」ため、個人的には「3つ目の理由だけで十分ではないか」と思ってしまう。

兎に角、ウクライナが入手可能なF-16は今のところオランダとデンマークのものしかないが、他国にとっても自国の安全保障を強化する絶好のチャンスで、誰かが戦闘機を手放すという情報が流れると「潜在的な買い手」が直ぐに登場するため、海外市場における中古戦闘機の需要は非常に旺盛だ。

中古F-16を巡る争奪戦、ウクライナはアルゼンチンに譲ってくれと訴える

出典:Radafaz / CC BY-SA 3.0

ポルトガルが手放した17機のF-16AMとノルウェーが手放した32機のF-16AMはルーマニアが、オーストラリアが手放したレガシーホーネットの内25機をカナダが、カタールが手放した12機のミラージュ2000-5はインドネシアが購入、アラブ首長国連邦のミラージュ2000-9もインドネシアが交渉中で、台湾のミラージュ2000-5はインドが狙っていると噂されており、クウェートが手放す予定のレガシーホーネットにはマレーシアとチュニジアが手を上げている。

さらに各国が手放す戦闘機はDrakenのような民間軍事会社(演習等で顧客国に訓練サービスを提供する企業)も狙っており、スペアパーツを剥ぎ取るという需要も存在するため、オランダとデンマークが手放すF-16を狙っている国(企業)はアルゼンチン以外にもいるかもしれない。

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※アイキャッチ画像の出典:Steve Lynes/CC BY 2.0

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