米国、クラスター砲弾の活躍を受けて同タイプのATACMS提供を検討中

ウクライナが要求する長距離攻撃兵器であるATACMSの提供に消極的であった米国ですが、クラスター砲弾が効果的な働きを見せたため、これまで選択肢から除外されていた「M74子弾を内包するATACMS」の提供を検討しています。

ATACMSの在庫が急に増えたのではなく、新たな選択肢が追加された

ウクライナには、米英独仏から提供されたGMLRS弾や多連装ロケットシステムが80km先の目標を攻撃する役割を果たしましたが、ロシア軍はGMLRS弾が届かない地域に司令部や兵站拠点を移動させ、さらにGPS信号を妨害するPole-21を使用してGMLRS弾の攻撃効果を減少させることに成功しました。そのため、HIMARSやMLRSによる攻撃は決定的なものではなくなってしまいました。

ウクライナはGMLRS弾よりも遠くの目標を攻撃できる「長距離攻撃兵器」の要請をしました。これを受けて、バイデン政権は今年2月にGLSDB(地上発射型小口径爆弾)の提供を発表しました。GLSDBはクラスター弾非活性化のために用済みになったM26弾のロケットモーターやアフガニスタン紛争で余ったSDBを再利用した地上発射型の滑空爆弾で、150km先の目標を攻撃できるものです。ただし、実物の供給はまだされておらず、初回の出荷は10月頃になる予定です。

英国とフランスは反攻作戦の開始に合わせてストーム・シャドウを提供しました。このミサイルはMTCR(ミサイル技術統制レジーム)の規定に準拠した射程短縮バージョン(300km以下)またはオリジナルバージョン(500km以上)を提供しています。これにより、ルハンシクやクリミアなど従来手が届かなかった地域を攻撃することができ、効果を上げています。

ウクライナは米国(ATACMS)やドイツ(KEPD350)からも同種の長距離攻撃兵器を提供してほしいと要求しています。しかし、バイデン大統領やショルツ首相は新たな長距離攻撃兵器の提供に否定的な立場をとっており、ドイツ社会民主党の報道官は先月6日に「米国と共同であればKEPD350のような兵器の供給は可能だ」と述べました。これは、レオパルト2とエイブラムスの提供と同じやり方であり、KEPD350を提供する場合はATACMSとセットでなければならないという意味です。

バイデン大統領が提供に消極的なのは、「保有量が少ないATACMSをウクライナに提供すると、自国の安全保障に影響が出る」という報告を受けているためです。しかし、ABCは米当局者の話を引用して10日、「当初の評価よりも多くのATACMSを保有していることが判明し、今後の安全保障パッケージにATACMSを含める可能性が高い」と報道しています。つまり、クラスター砲弾の効果的な働きを見せたことで、「M74子弾」を内包するM39やM39A1の提供が検討されることになったのです。

これまでATACMSの提供議論は、「クリミア大橋に届く単一弾頭を搭載したバージョン=M57もしくはM57E1」とされていました。しかし、M39(M74を950発内包/射程165km)やM39A1(M74を300発内包/射程300km)が加わったことで、「当初の評価よりも多くのATACMSを保有している」と評価が変わりました。バイデン政権は国防総省の考えとして、「155mm砲弾タイプよりも射程と制圧範囲が広いM39やM39A1でロシア軍の後方を攻撃すれば大きな効果が期待できる」と考えている可能性が高いです。

ロイターも11日、「バイデン政権はクラスター砲弾の効果を見て子弾を内包するATACMSとGMLRSの提供を検討している。検討中のATACMSは約300発の子弾を、GMLRSは約400発の子弾をばら撒くことができるものの最終決定には至っておらず、戦いのエスカレーションを招く判断されれば提供見送りの可能性もある」と報じています。そのため、ATACMSのM39かM39A1、GMLRSのM26が提供に向けて議論されていることが事実です。

ATACMSの在庫が急に増えたわけではなく、これまで提供議論の外にあったM39やM39A1が選択肢に加わったため、その評価が変わったということになります。この部分の解釈を間違えると、「ウクライナにATACMSを提供したくないために保有数が少ないと言い訳していた」という誤った話に発展することになるので、注意が必要です。

追記:ドイツのピストリウス国防相は「ATACMSが提供されてもKEPD350の制限が解除されるとは限らない」と発言しました。現在検討されているATACMSが単一弾頭タイプではないため、「KEPD350は提供できない」という意味です。

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※アイキャッチ画像の出典:Photo by John Hamilton M270から発射されたATACMS

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