欧州EVシフトは後退か? 英国のガソリン・ディーゼル車「“新車販売禁止”を2035年まで延期」発表の激震

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グリーン化にまい進するヨーロッパだが、欧州連合(EU)から離脱した英国では、そのグリーン化の手綱を緩める動きが出てきている。リシ・スナク首相は9月20日に会見し、ガソリンやディーゼルを動力源とする内燃機関(ICE)車の新車販売禁止を、それまでの目標であった2030年から5年遅らせ、2035年にすると発表した。

グリーン化の見直しに活路を見出したスナク首相

それではなぜ、スナク首相はこのタイミングでEVシフトの先送りを発表したのだろうか。確実なのは、この高インフレの中では、グリーン化の「強化」だと有権者の支援を得られなくなったということだ。つまり、スナク首相のEVシフト先送りは、任期満了の場合2025年1月までに実施が予定されている次期の総選挙を見据えた発言となる。

2022年から現在に至るまで、英国は歴史的な高インフレに苛まれている。高インフレは、実質所得を減少させるため、個人消費を圧迫する。また家賃相場も首都ロンドンを中心に記録的な上昇となり、国民の負担は増している。英中銀(BOE)は利上げでインフレの抑制に努めているが、この金利上昇も家計の重荷となっている。

このように、英国民の生活は厳しさを増している。そうした中で、グリーン化がどれほど重要でも、追加的な負担を強いられることに対して拒否感を持つ有権者が増え始めているようだ。7月20日に首都ロンドン郊外で行われた下院の補欠選挙で、当初の予想を覆して与党・保守党の候補が1議席を維持したことは、その端的な事例となった。

この補欠選で争点となったのは、ロンドンのサディク・カーン市長が進める自動車排ガス規制(ULEZ)のロンドン全域への拡大だった。排ガス規制に満たない車両に対して相応の通行料が徴収されるこの制度がロンドン全域に拡大されれば、新たな負担を強いられる市民が増えることになる。これに保守党の一部の支持者が反発したわけだ。

補欠選での予想外の勝利を受けて、スナク首相はグリーン化の見直しが有権者のアピールになると手応えをつかんだのだろう。補選後の7月24日、BBCのインタビューで、国民負担を軽減する観点からグリーン化の見直しに言及した。今回の「EVシフト目標の先送り」は、この発言の延長線上にある決定と考えていい。

スナク首相は会見の中で、政府が電気自動車(EV)の普及を積極的に誘導するのではなく、消費者の自主的な選択を重視するべきだと強調した。また首相は、英国が50年までの気候中立の実現を引き続き目指すとしながら、コストダウンなどでEVの普及が進み、2030年までには新車販売の大部分がEVになるという見方を示した。

このEVシフト目標の見直しに関しては、スナク首相とその周辺による決断が先行したようだ。閣内の電話会議では、驚きを隠せない閣僚もいたとされる。

さらにスナク首相を擁する保守党の中でも、国際公約を後退させることによる国際社会での影響力の低下や、海外投資家のEV関連投資意欲の低下を懸念する声が上がっている。

当然だが、EVシフトの推進を目論む側からはスナク首相に対して批判が相次いだ。

産業界からは、英国のグリーンビジネスに多額の投資を予定していた投資家や事業者から、大きな批判が寄せられた。また政界では、最大野党である中道左派の労働党が、グリーン化を極めて重視する立場から、スナク首相の発表を強く批判した。

とはいえ、スナク首相はEVシフトそのものの旗を降ろしたわけではない。

確かに目標年次を2030年から2035年まで5年先送りしたわけだが、自らが袂を分った欧州連合(EU)とその目標の平仄を合わせたまでであり、それが「後退」だと必ずしもいえない。しかしその決断が批判されるところに、現在のヨーロッパの複雑さがある。

ソースリンク: 日本ニュース24時間