ジャニーズ事務所は、なぜ元副社長の白波瀬傑氏を隠し続けようとしているのだろうか。10月2日、この事務所は記者会見を行い、故・ジャニー喜多川氏の性的加害問題に関する対応策の詳細を発表する予定だ。
この会見の結果次第では、大晦日の「NHK紅白歌合戦」に出演するジャニーズのアーティストがゼロになる可能性がある。9月27日の定例会見で、NHK会長の稲葉延雄氏は「被害者への補償や再発防止の取り組みが実施されていることが確認されるまで、新規の出演依頼は行わない」と明言した。ただし、それも10月2日の会見結果次第と含みを持たせている。
白波瀬氏の重要性とNHKの関心度
ジャニーズ事務所を詳しく知る人々によれば、「今回の会見はジャニーズにとって大きな分岐点となる。だからこそ、白波瀬氏の出席が求められる」という。白波瀬氏はジャニーズ事務所に50年以上在籍し、ジャニー氏の性的加害問題についての「週刊文春」との裁判にも出廷していたのだ。
ジャニーズ事務所が法人登記された1975年、白波瀬氏は入社し、豊川誕のマネジャーなどを務めた後、広報・宣伝の担当となった。週刊誌の記者によれば、「ジャニーズに関するニュースを取り上げる際には、記事を掲載する前に事務所に連絡し、事実を確認する。ジャニーズの場合はいつも白波瀬氏が対応していた。ジャニーズのタレントが別の雑誌に出ているときは、その事実が匂わされながら、記事の撤回や表現の軽減を促されることもあった」という。
記事が掲載されることは滅多になかったが、それでも弱まって世に出ることがあったという。
「タレントが女性の家に一人で行ったとき、白波瀬氏は『他にも人がいた』と主張することもあった。白波瀬氏がタレントに確認しているのか、その場で言いたいことを言っているのかはわからないが」と、週刊誌の記者は話す。
週刊誌は白波瀬氏に対抗するための取り組みもしていたが、スポーツ紙は上手くやり過ごされていた。
「白波瀬氏は『ウチのタレントは一日一人、もしくは一グループの紙面掲載』と通達していた。他のニュースが報じられると目立たなくなるからだ。たとえば、記者会見を開く場合、ジャニーズのグループ内で調整できるなら問題ないが、ドラマや映画には他の事務所の出演者も多数いる。それでも、ジャニーズ事務所の都合が優先され、一日一人の制限が守られていた。さらに、白波瀬氏は大きな紙面になってほしいと頼んでくる。編集権に口を出すことは考えられないが、ジャニーズのタレントの単独インタビューが掲載されると売り上げが上がるため、デスクは業を煮やしていた」と、スポーツ紙の記者は話す。
テレビ業界と白波瀬氏の圧力
白波瀬氏はテレビのワイドショーにも圧力を掛けていたという。2000年代以降、ジャニーズ事務所のタレントたちは社会問題を引き起こし続けてきた。2001年にはSMAPの稲垣吾郎が道路交通法違反と公務執行妨害で現行犯逮捕され、2018年にはTOKIOの山口達也が強制わいせつ容疑で書類送検された。
「刑事事件になると、ジャニーズであっても取り上げます。白波瀬氏は担当者に電話をして『記事を短くしてほしい』など、控えめな扱いを求めることもあった。ジャニーズ事務所は放送局に対して『ジャニーズに都合の悪いニュースは扱うな』という方針だったため、大きな問題ではないような変な報道になることもあった。『稲垣メンバー』『山口メンバー』という表現も、メリー氏と白波瀬氏への配慮から生まれたものだ」と、テレビ業界関係者は話す。
90年代の前半までは、ワイドショーやスポーツ紙もジャニーズタレントの恋愛ネタなどを取り上げていた。近藤真彦と中森明菜の交際は頻繁に話題になり、田原俊彦が中山美穂と正月にハワイ旅行に行くと、各局のカメラが追いかけたものだ。
「ワイドショーやスポーツ紙がジャニーズに気を遣うようになったのは、90年代半ば以降です。SMAPが歌やドラマだけでなく、バラエティやキャスター業も始め、テレビ局のあらゆる番組に出演し、高視聴率を稼いでいたからです。それを背景に、メリー喜多川氏が『このネタを放送するなら、ウチのタレントを引き上げる』などと圧力を掛けたのです。以降、ジャニーズの恋愛ネタはワイドショーやスポーツ紙から消えました。結婚の際に取り上げられるくらいです」と、民放関係者は話す。
メリー氏の恫喝行為は「再発防止特別チーム」の調査報告書でも明記されている。
《「メディア対応を委ねられていたメリー喜多川は、ドラマの共演者が気に入らないと、その放送局の社長に直接電話をかけ、外すよう要求することもあった」》
《「メリー喜多川は、森がオートレーサーの試験に合格した事実を前向きに報じようとした民放のプロデューサーに、『SMAPには森なんていなかったでしょ？』『最初からいないの。森はSMAPのメンバーじゃない。』などと大声を出した」》
99年の「週刊文春」の記事をもとに、上記の証言をまとめたうえで、以下のように事実認定されている。
《その重要な部分が真実であるとの証明がされたか、又は少なくとも、被告の文藝春秋らが、これを真実と信ずるについて相当の理由があったというべきであり、「マスメディアは、原告事務所を恐れ、追従していること」それ自体又はその前提となる事実を真実と信ずるについては、相当の理由があったと判示している（この点は、東京高裁判決においても維持されている）。》
白波瀬氏の証言が必要不可欠
このようなメリー氏の圧力に従っていたのが白波瀬氏だった。
「メリー氏は局の幹部に強く当たりをつけた。現場では『ジャニーズは和らいで扱え』との指示が与えられた。しかし、それだけでうまくいくとは限らなかったため、白波瀬氏が継続的にプレッシャーをかけ続けた。メリー氏の恫喝と白波瀬氏の監視によって、ジャニーズ事務所はテレビ業界を牛耳ってきたのだ。つまり、ジャニー氏の性的加害問題を放置し、隠蔽したのはメリー氏だけではなく、白波瀬氏にも責任がある。だからこそ、彼が会見に出席しないことはあり得ないのだ」と、民放関係者は話す。
9月7日の会見で「なぜ白波瀬氏が出席しないのか」と問われると、東山紀之社長は「もう退任しているからです」と答えた。同席していた木目田裕弁護士も「まずは責任という問題でいえば（ジュリー）藤島さんが一身を持って自分の責任だということで、ここに出るということにしている」と助け舟を出した。
「これは隠蔽行為です。過去の検証なくして、先に進むことはできません。もしジャニーズ事務所が『ジャニー氏のような性的加害を起こさない』『メリー氏のような圧力はかけない』と誓うのであれば、白波瀬氏が会見に出席し、質問に逃げずに全てを話す必要がある。そうしない限り、この問題は終わらないのです。東山社長たちが話したところで、説得力はない。彼らは当時の事務所がメディアに対してどのようなアプローチをしていたかまでは知らないからです」と、週刊誌の記者は話す。
上層部が変わっても、ジャニー氏の性的加害やメリー氏の圧力を最もよく知る男を隠し続けるのはおかしい。白波瀬氏が10月2日の会見に出席しなければ、ジャニーズ事務所の“隠蔽体質”は何ひとつ変わっていないと断言できる。
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