長年の会社勤めを終え、豊かな老後を迎えたはずの60代夫婦。十分な退職金と年金を手にし、新たなステージの門出に一世一代の豪華旅行に出かけたことから、思いもよらぬ展開が待っていました。なぜ、安定していたはずの老後資金が底をつき、破産寸前に追い込まれてしまったのか……。本記事では、山田さん夫婦(仮名)の事例とともに、安易な高利回り商品への投資が招いた悲劇と、その予防策について、合同会社エミタメの代表を務めるFPの三原由紀氏が解説します。
「人生最大の豪華旅行」から始まった予期せぬ転落
山田浩一さん(仮名/65歳)と久美子さん(仮名/64歳)は、ともに大手企業で35年以上勤め上げた元サラリーマン夫婦です。浩一さんは電機メーカー、美智子さんは金融関連の会社で働き、2人合わせた退職金は3,000万円、年金額は夫婦で月35万円、来年からは完全な年金生活です。
子供たちはすでに独立し、住宅ローンも完済。貯金は退職金以外に1,000万円あり、老後の生活に不安はないと考えていました。
「長年頑張ってきたんだから、退職金の一部で豪華な旅行をしてもバチはあたらないよね」と2人で意気投合。選んだのは、長年憧れていたクルーズ旅行でした。
学生時代にはバックパッカーでヨーロッパを巡った浩一さん。今回は奮発してビジネスクラスを利用してバルセロナ入りし、40年以上前と変わらぬサクラダ・ファミリアに感動。その後、港に移動しクルーズ船に乗船すると、地中海の絶景を眺めながらの船上ディナー、各寄港地でのエキゾチックな体験に、夫婦で人生の新章の幕開けを祝福し合いました。
しかし、この船旅が彼らの人生を大きく変えることになるとは、この時点では予想だにしていませんでした。
旅先での出会いで知った「夢の投資話」
クルーズ船内で山田夫妻は、同じくリタイア組の後藤さん夫妻と出会います。後藤さん夫妻のスマートな立ち振る舞いに魅了され、バーでお酒を酌み交わしながら、プライベートな会話を交わすまでに。後藤さん夫妻が海外駐在をしていたこと、いかに多くの不動産や金融資産を運用し、さらに豊かに老後を楽しんでいるかを知ったのです。
後藤さんは、投資で成功したお金でクルーズ旅行を楽しんでいると語り、「個人向け社債(以後、私募債)」という商品を紹介しました。「元本保証で、年利15%も夢じゃないよ」という言葉に浩一さんは俄然興味を持ちました。