旧石器捏造事件:ゴッドハンド藤村氏のその後と日本の考古学への衝撃

日本の考古学界を揺るがした旧石器捏造事件。2000年11月5日、毎日新聞のスクープによって“ゴッドハンド”と呼ばれた藤村新一氏の捏造行為が白日の下に晒されました。あれから20年以上が経ち、事件の真相や藤村氏のその後、そして日本考古学への影響について改めて振り返ってみましょう。

ゴッドハンドの栄光と転落

藤村氏は、数々の遺跡から旧石器を発掘し、考古学界で一躍時の人となりました。しかし、毎日新聞のスクープにより、その輝かしい功績は全て捏造であったことが発覚。決定的瞬間を捉えた写真と共に報じられた捏造劇は、日本中に衝撃を与えました。

藤村新一氏が石器を埋めている決定的瞬間藤村新一氏が石器を埋めている決定的瞬間

藤村氏は当初、捏造を一部認めるにとどまりましたが、その後の調査で、関与した162もの遺跡で捏造が行われていたことが明らかになりました。 考古学者の間では、捏造発覚以前から藤村氏の発見に疑問を持つ声も上がっていたといいます。例えば、共立女子大学非常勤講師(当時)の竹岡俊樹氏は、捏造発覚以前から藤村氏の発見に疑念を抱いていたと証言しています。

事件後の藤村氏と精神状態

事件後、藤村氏は精神病院に入院。妻と離婚し、後に病院で出会った女性と再婚しました。福島県南相馬市に移り住み、NPO法人で働くなどしていましたが、東日本大震災で被災し、避難生活を送るなど、波乱の人生を送ったようです。

2003年には考古学者から偽計業務妨害容疑で告発されましたが、不起訴処分となっています。しかし、藤村氏の捏造行為が日本の考古学に与えた影響は甚大で、取り返しのつかないものでした。

日本の考古学への影響

藤村氏の捏造によって、日本の歴史、特に旧石器時代に関する研究は大きな痛手を負いました。例えば、宮城県の上高森遺跡では、70万年前の石器が発見されたとされていましたが、これも捏造であったことが判明。これにより、70万年前から日本列島に人類が住んでいたという定説は覆され、前期および中期旧石器時代に関する研究は白紙に戻ることになりました。

高校の教科書にも影響が出ました。上高森遺跡の“発見”を受け、「生活の痕跡は原人の時代までさかのぼる」といった記述が教科書に掲載されていましたが、事件後には削除されました。捏造発覚以前、日本最古の石器は群馬県の岩宿遺跡で発見された約3万年前のものとされていましたが、藤村氏の捏造によって日本の歴史は70万年前から3万年前へと大幅に後退してしまったのです。

毎日新聞のスクープ記事毎日新聞のスクープ記事

藤村氏は、後に「人格が入れ替わる」「自分の分身が多い時には20人いた」「指を切れという幻聴が聞こえた」などと語り、実際に右手の指を2本、鉈で切り落としていたといいます。これらの言動から、藤村氏が精神的に追い詰められていた様子が伺えます。

旧石器捏造事件は、日本の考古学史における一大スキャンダルとして、後世に語り継がれるでしょう。この事件を教訓として、考古学研究における倫理観の確立と再発防止策の徹底が求められています。