検察「東大閥」に地殻変動か…トップ人事が示す新潮流

検察庁の幹部人事に「地殻変動が起きている」との見方が強まっている。7月半ばの発令を控えた法務省の川原隆司事務次官の東京高検検事長への起用、そしてその後任に森本宏刑事局長を充てる閣議決定が、この観測の背景にある。近年、大阪地検特捜部の証拠改竄事件や大川原化工機の冤罪事件での損害賠償判決確定など、「冬の時代」とも称される厳しい状況が続く検察組織。その中枢で報じられる「地殻変動」とは、長らく検察を支配してきた東京大学出身者(東大閥)の優位性が終焉を迎えつつあることを意味するのではないか。

近年の検事総長に非東大出身者が増えている状況を示すイメージ。近年の検事総長に非東大出身者が増えている状況を示すイメージ。

検察トップ人事の変遷

検察組織の最高位ポストである検事総長は、昨年、史上初めて女性が就任したことでも大きな話題となった。しかし、それ以前の10人の検事総長のうち、実に8人が東京大学法学部の卒業生である。但木敬一氏(第23代)、樋渡利秋氏(24代)、小津博司氏(27代)、大野恒太郎氏(28代)、西川克行氏(29代)、稲田伸夫氏(30代)、林眞琴氏(31代)、甲斐行夫氏(32代)といった面々が名を連ねる。

伝統的な出世コースと東大閥

検事総長への昇進は、法務・検察行政の事務方トップである法務事務次官、そして検察ナンバー2である東京高検検事長を経てたどり着くのが慣例とされてきた。前述の東大出身総長8人のうち、甲斐氏を除く7人はこの「法務事務次官→東京高検検事長」という出世コースを歩んでいる。この経路をたどる検察のエリート集団は「赤レンガ派」と呼ばれ、中でも司法試験の合格者数で常に上位を占める東大閥がその中核を担ってきた。まさにこの牙城が、今まさに音を立てて崩れ始めている兆候が見られるという。

非東大出身総長の事例

戦後、33代を数える検事総長のうち、東大(旧東京帝大含む)出身者は25人を占める。これに対し、旧帝大である京都大学出身者は4人。その他の大学からの輩出は、吉永祐介氏(第18代、岡山大学)、大林宏氏(25代、一橋大学)、笠間治雄氏(26代、中央大学)、そして現職の畝本直美氏(33代、中央大学)のみである。このうち、京大出身者3人と大林氏は、東大出身者と同様に法務事務次官と東京高検検事長を歴任している。

新法務事務次官に就任した森本宏氏の肖像。検察の次世代リーダー候補として注目される非東大出身者。新法務事務次官に就任した森本宏氏の肖像。検察の次世代リーダー候補として注目される非東大出身者。

しかし、吉永氏と笠間氏の総長就任は、検察内部では「異例中の異例」と認識されている。吉永氏は「ミスター検察」と呼ばれ、田中角栄元首相を逮捕したロッキード事件での功労者。金丸信元自民党副総裁の事件で検察が非難を浴びた際に、その威信回復のために異例の抜擢となった。笠間氏も「政治とカネ」の問題に厳しく切り込んだ特捜検事であり、大阪地検特捜部による証拠改竄事件で失墜した検察の信頼を取り戻すために異例の起用となった人物だ。いずれも、その能力と実績から「余人をもって代えがたい存在」として特別に選ばれたレアケースと言える。近年の畝本氏に続き、今回の人事もまた、非東大出身者が検察の中枢を担う流れを加速させる可能性がある。

検察のトップ人事における今回の動きは、単なる定期異動にとどまらず、長年続いた「東大支配」という構造からの脱却、多様な人材が最高位に就く可能性を示唆している。これは、近年の検察が直面した信頼性の課題や社会からの視線も影響しており、組織の刷新に向けた新たな局面の始まりとなるかもしれない。

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