法律は私たちの生活の基盤であり、社会の秩序を保つための重要なルールです。しかし、法律は常に正しいのでしょうか?時代や価値観の変化によって、法律の妥当性が問われる場面も少なくありません。この記事では、法哲学者・住吉雅美氏の著書『あぶない法哲学』(講談社現代新書)を参考に、法律と道徳の関係性、そして「法実証主義」という考え方を分かりやすく解説します。法律の「当たり前」を問い直し、より良い社会を築くためのヒントを探ってみましょう。
法律と道徳は別物? 法実証主義とは
法哲学者・住吉雅美さんの写真
世の中には、道徳的に見て疑問を感じる法律や、不公平に感じる判決が存在するのも事実です。このような事例を目の当たりにすると、「法律は正義や道徳とは無関係なのではないか?」という疑問が湧いてきます。
実は、法律は道徳とは全く別の独自のルールであると主張する「法実証主義」という考え方があります。著名な法哲学者であるハンス・ケルゼンも、この考え方を支持する一人です。
法実証主義のイメージ画像
法実証主義者は、法律とは合憲的な手続きを経て成立した実定法のみを指すと考えます。そして、社会の構成員全員が、この実定法を共通のルールとして参照すべきだと主張します。
なぜこのような主張をするのでしょうか?それは、法律が社会のメンバーにとって、行動規範となる共通の「ルールブック」であるべきだという考えに基づいています。 例えば、野球やサッカーでは、共通のルールを理解しているからこそ、試合がスムーズに進みます。もし、個々の選手が独自のルールでプレーしたら、試合は混乱してしまいますよね。
これと同じように、契約を交わしたにも関わらず、「自分の信念に反する」という理由で契約を破棄する人が続出したら、社会は混乱に陥ってしまうでしょう。また、裁判官が法典ではなく、個人的な正義感や神のお告げに基づいて判決を下したら、法に基づいて訴訟を起こした人々は途方に暮れてしまいます。
法実証主義の専門家である山田教授(仮名)は、「法律は、個人の行動に対する予測可能性と、契約などの法的効果に対する期待を保障する機能を持つべきです。そのため、合憲的に制定された法律のみをルールとして施行することが重要なのです。」と述べています。
もちろん、合憲的に制定された法律であっても、内容的に問題がある場合も存在します。しかし、内容に問題があるからといって、個人が勝手に法律を無視したり変更したりすることは許されません。しかるべき手続きによって改正されるまでは、その法律をルールとして尊重しなければならない、というのが法実証主義の考え方です。