大物議員が「娘をよろしく」
「おばんです、鈴木宗男です。娘の鈴木貴子をよろしくお願いします」
ここは北海道釧路市の繁華街・末広町の「赤ちょうちん横丁」。北海道では最古の“赤ちょうちんが並ぶエリア”と言われている。
【写真】すごい風格…!鈴木宗男議員が極寒の中、スーツ姿で向かった先
参議院議員の鈴木宗男氏(76)が暖簾をくぐり、横開きの木のドアをゆっくりとあけて、カウンターしかない約3畳の狭い居酒屋の店主に頭を下げた。そこから10秒ほどで今度は左腕に名前が刺繍された緑の防寒着を着た鈴木貴子氏(38)が暖簾をくぐって、「娘の鈴木貴子です。よろしくお願いします」と頭を下げた。
第50回衆議院議員選挙に向けた選挙戦最終日となる10月26日土曜日の夜、20時までの街頭演説が終わると、貴子氏と宗男氏がそろって繁華街で最後のお願いに挑んだ。
貴子氏は自民党所属となってから今回が初めての小選挙区での立候補。彼女が出馬した北海道7区は、自民党の事前調査によれば前半戦は立憲民主党の篠田奈保子候補が優勢となっていた。中盤になって貴子氏が篠田候補を追い抜き、接戦を繰り広げていた。
再び情勢が変わったのは、選挙の後半戦に差し掛かった10月23日。自民党本部が「裏金議員」が支部長を務める支部にも2000万円を支給していたことが報道されたのだ。貴子氏陣営に不穏な空気が流れ、「今回は危ない」「北海道の自民党は全滅ではないか」という声が聞こえ始めた。スタッフたちの表情も暗かった。
この状況を打破するための起死回生の一手が、親子での最後のお願いだった。
◆極寒でも「上着は着ない」
「昔の末広町は、いつも漁師さんがいっぱいで景気も良くにぎやかだったが、今は人通りも少なくなったよ」と寂しそうに語ったのは宗男氏。
長年にわたり釧路を地盤とし、北海道で抜群の知名度をもつ宗男氏。通りすがりの人たちからの握手や記念撮影の要求に快く応じた。貴子氏も遊説先で会った人たちと話し込む姿が見られた。貴子氏のインスタグラムでの投稿を見て応援に駆け付けたという20代の男性もいた。地元に幅広い支持層がいることを感じさせた。
10月の釧路は夜の気温が9度まで下がり、防寒着が必要となる。スーツ姿の宗男氏に、「代表、上着を持ってきたほうがいいですよ」と貴子氏がささやいたが、宗男氏は娘の言葉に耳を貸さない。最後までスーツ姿のまま、ひたすら繁華街を練り歩いた。
必死のお願いの甲斐あってか、貴子氏は篠田候補に2万4000票あまりの差をつけて当選。自民党所属の貴子氏のために、無所属の宗男氏が率先して暖簾をくぐり、頭を下げる姿からは「親バカ」ともいえる深い愛情を感じずにはいられなかった。
そして、背中は父より一回り小さいものの、貴子氏からも底知れぬ力強さを感じた。「いつか政治家として父を超える」ことを目標と公言する貴子氏。「鈴木王国」を継承する日が近いことを印象付ける選挙戦だった。
撮影・取材・文:船元康子
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