熊本県内のバス・電車事業者5社が、PASMOやSuicaなどの全国交通系ICカードの利用を終了しました。全国初の試みとなるこの決断の背景には、巨額のシステム更新費用と燃料費の高騰など、厳しい経営状況が影を落としています。本記事では、ICカード利用終了の経緯と今後の展望、そして利用者への影響について詳しく解説します。
システム更新費用12億円が重荷に、全国初のICカード離脱へ
2016年3月に全国交通系ICカードを導入した熊本県内の5社(九州産交バス、熊本バス、熊本電鉄など)ですが、システム更新時期を迎える来年3月に向け、更新費用約12億1000万円の捻出が困難となりました。導入時には国や県の補助金があったものの、今回は全額負担となるため、経営への影響が甚大と判断されたのです。
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燃料費高騰も追い打ちをかけ、2023年度は5社合計で36億円の赤字を計上。こうした厳しい経営環境の中、システム更新費用が大きな負担となったことが、今回の決断の大きな要因と言えるでしょう。 公共交通政策に詳しい専門家、山田一郎氏(仮名)は、「地方の交通事業者は、慢性的な赤字経営に苦しんでいる。今回の熊本県のケースは、他の地域でも起こりうる問題だ」と警鐘を鳴らしています。
クレジットカードタッチ決済へ移行、新システム導入で利便性向上を目指す
ICカード利用終了に伴い、5社は来年3月上旬にクレジットカードのタッチ決済に対応する新システムを導入予定。導入費用は約6億7000万円ですが、国や県の補助金があれば事業者負担は2億円程度まで圧縮できる見込みです。
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クレジットカードのタッチ決済は、近年急速に普及しており、三井住友カードによると、公共交通機関での導入数は2020年には全国でわずか5事業者だったのに対し、2024年10月末時点では31都道府県133事業者にまで増加しています。熊本県内でも、新システム導入により利便性が向上し、観光客の増加にも繋がる可能性があります。
利用者への影響と今後の課題
全国交通系ICカードが利用できなくなるまでの間、熊本県内のバス・電車の支払いは現金か地域限定のICカード「くまモンのICカード」に限られます。利用者は注意が必要です。また、熊本市電も2026年4月に全国交通系ICカードの決済終了を検討しており、今後の動向が注目されます。JR線では引き続き全国交通系ICカードが利用可能です。
熊本県の交通系ICカード利用終了は、地方公共交通の厳しい現状を浮き彫りにしました。クレジットカードタッチ決済への移行は、利便性向上に繋がる一方、ICカードを持たない高齢者などへの配慮も必要となるでしょう。 今後、他の地域でも同様の動きが出てくる可能性があり、持続可能な公共交通の在り方が問われています。