中国南部・広東省珠海市で2024年11月11日に発生した痛ましい車の暴走事件。35名もの尊い命が奪われたこの事件は、中国社会に大きな衝撃を与えました。TBS NEWS DIG取材班は事件発生直後、現場へと急行し、状況把握と情報収集に当たりましたが、そこで遭遇したのは、想像を絶する出来事でした。
航空ショーの陰で起きた悲劇
翌日から開催される中国最大規模の航空ショーの取材のため、珠海市に滞在していた私たちは、事件発生の一報を受け、直ちに現場へと向かいました。SNS上では既に、凄惨な事故の様子を捉えた動画が拡散されており、胸が締め付けられる思いでした。この事件は、近頃中国各地で発生している無差別襲撃事件の一つとして捉えられ、社会不安の高まりを象徴する出来事として注目を集めていました。上海のスーパーマーケットでの切りつけ事件、北京の小学校前での襲撃事件など、類似の事件が相次いでおり、背景には社会への不満があると分析されています。
珠海市暴走事件現場付近
謎の「市民」による取材妨害
現場付近に到着した私たちは、厳戒態勢を敷く警察官の姿を公道から撮影しました。事件現場となった体育施設へは近づけず、入り口は固く閉ざされていました。その時点では、警察官から撮影を制止されることはありませんでした。
目撃者の証言を得ようと、路上で談笑していた男性たちに声をかけた瞬間、事態は急変しました。「先ほどここで起きた事件について何か知っていますか?」と尋ねると、男性たちの表情は一変。「お前らカメラで何を撮るつもりだ、ここで撮影をするんじゃない」と、激しい剣幕で詰め寄られました。私たちは「わかりました。撮影はしません。もう帰ります」と伝え、その場を離れようとしましたが、男性たちは執拗に追いかけてきました。中には、「こいつらカメラを持っているぞ。今すぐ職務質問するべきだ」と警察官を呼ぶ者もいました。
映像の消去を強要される
私たちは「市民」を名乗るこれらの男性たちに囲まれ、威圧的な態度で撮影した映像の消去を強要されました。中国での取材活動において、このような「謎の市民」による妨害行為に遭遇することは少なくありません。彼らの正体や目的は不明ですが、取材の自由を阻害する深刻な問題となっています。
情報統制の実態と報道の自由
今回の事件は、中国社会における情報統制の厳しさと、報道の自由が制限されている現実を改めて浮き彫りにしました。私たちは、真実を伝えるというジャーナリストとしての使命感と、身の安全を確保する必要性の間で葛藤を強いられました。
中国政府による情報統制は、国民の知る権利を侵害するだけでなく、社会全体の健全な発展を阻害する要因となりかねません。国際社会は、中国における報道の自由の現状に強い懸念を抱いており、改善を求める声が上がっています。
この事件を通して、私たちは中国社会の複雑な現実を改めて認識しました。今後も、困難な状況に屈することなく、真実を追求し、報道の自由を守り抜く決意です。