名古屋市保育園、非正規職員1200人の雇い止め問題で波紋 保育の質低下への懸念も

名古屋市立保育園で働く非正規職員約1200人が年度末で雇い止めとなる方針が発表され、波紋が広がっています。30年以上勤務するベテラン職員を含む、多くの保育士や保育補助員の雇用継続を求める声が上がっており、保育の質の低下を懸念する意見も出ています。この記事では、問題の背景や関係者の訴え、今後の影響について詳しく解説します。

会計年度任用職員制度と雇い止めの現状

今回の雇い止め対象となっているのは、いわゆる「会計年度任用職員」と呼ばれる非正規職員です。この制度は2020年度に導入され、1年度ごとの任用更新となっています。多くの自治体では更新回数に上限を設けており、名古屋市では上限が4回とされています。そのため、勤続5年目を迎える職員は、能力に関係なく雇い止めとなる可能性があります。

alt 名古屋市立保育園で働く保育補助員の尾崎よしみさん(中央)らが記者会見で雇用継続を訴える様子。alt 名古屋市立保育園で働く保育補助員の尾崎よしみさん(中央)らが記者会見で雇用継続を訴える様子。

名古屋市では、約1800人の会計年度任用職員のうち、約1200人が保育士や保育補助員として市立保育園で働いています。今回の雇い止めにより、これらの職員の約7割が職を失う可能性があり、現場からは不安の声が上がっています。

現場の声:30年以上のベテラン職員も雇い止めの対象に

30年以上市立保育園で保育補助員として働く尾崎よしみさんは、記者会見で「私たちはモノではありません。大切な子どもたちと接するための知識や経験を積み、働き続けているその誇りを知ってください」と訴えました。尾崎さんのように、長年の経験と専門知識を持つベテラン職員も雇い止めの対象となっており、保育現場のノウハウが失われることが懸念されています。正規職員をサポートする「補助のプロ」としての役割を担うベテラン職員の存在は、円滑な保育運営に不可欠です。

専門家の指摘:公共サービスの質低下への懸念

北海学園大学の川村雅則教授(労働経済専攻)は、「公共サービスの担い手は継続が大事。コロコロ人が変わるのでは質が低下する」と指摘しています。民間企業では非正規雇用の無期転換など、雇用の安定化を目指す動きが進む中、会計年度任用職員制度は逆行していると言えます。公務員としての権利保障もなく、民間の非正規労働者としての権利保障もない状況は、改善が必要と言えるでしょう。

人手不足の現状と矛盾:募集と雇い止めの同時進行

皮肉なことに、名古屋市では保育士の人手不足が続いています。市立保育園関連の求人情報は毎月多数掲載されており、現場では慢性的な人材不足が課題となっています。 愛知県労働組合総連合(愛労連)は、河村たかし市長(当時)に任命権者としての責任を果たすよう求めています。

alt 愛知県労働組合総連合(愛労連)らが記者会見の様子。alt 愛知県労働組合総連合(愛労連)らが記者会見の様子。

保育運営課は取材に対し、「保育事業が滞るほどの不足ではない」との見解を示していますが、欠員が存在するのは事実です。必要な人材を採用する一方で、経験豊富な職員を雇い止めにするという矛盾した状況に、疑問の声が上がっています。

今後の展望:保育の質の維持と職員の処遇改善が課題

今回の雇い止め問題は、保育の質の維持と職員の処遇改善という重要な課題を浮き彫りにしました。経験豊富な職員の雇用を維持し、安定した保育体制を確保することが、子どもたちの健やかな成長にとって不可欠です。今後の動向に注目が集まります。