日本の税金控除はなぜ低い? 欧米比較とステルス増税の実態

2025年以降、日本の所得税における基礎控除は95万円、給与所得控除は65万円となり、合計160万円となりました。これにより、「年収103万円の壁」は引き上げられる形です。しかし、元大蔵(財務)官僚の経済学者、髙橋洋一氏は、マスコミが「年収の壁」と説明するこの問題の見方が、本質をぼやけさせていると指摘します。髙橋氏は、これまで取り沙汰されてきた様々な「壁」に関する議論自体が、財務省による「陽動作戦」あるいは「陰謀」であったと主張します。

髙橋氏によれば、問題の本質は「壁」の存在ではなく、所得税の「基礎控除」と「給与所得控除」の「額」そのものにあります。基礎控除は、税金がかからない生活のための最低限のコストを意味します。改正前の基礎控除48万円と給与所得控除55万円の合計が103万円でした。基礎控除が48万円ということは、月の最低限の生活コストが4万円ということになりますが、これは明らかに現実離れしています。例えば、東京都の単身世帯向け生活保護費は、生活扶助だけで月およそ8万円、住居費を含めると月約13万円にもなります。

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財務省は消費税増税の際に他国と比較することを好みますが、基礎控除の国際比較はほとんど行いません。髙橋氏が政府公表資料を参考に主要国の最低所得に近い部分で国際比較を行うと、日本の控除額の低さが浮き彫りになります。直近の為替レートで比較すると、アメリカの基礎控除と給与所得控除の合計は約280万円、イギリスは約214万円、ドイツは約163万円、フランスは約168万円です。これに対し、日本は2025年からの合計でも160万円であり、欧米各国と比べてその額は大きく異なります。

基礎控除や給与所得控除が低いということは、それだけ課税対象となる所得が大きくなることを意味します。これは法律を変えることなく税負担を増やすことになり、髙橋氏はこれを長年にわたる「ステルス増税」であると強く批判しています。財務省は、「壁」が多数存在するかのように見せることで議論を混乱させ、控除額そのものの低さという本質的な問題に光が当たるのを避けてきた、というのが髙橋氏の分析です。

髙橋氏の指摘は、「103万円の壁」を巡る表面的な議論の裏に隠された、日本の税制におけるより根深い問題を示唆しています。今後、税制のあり方を議論する際には、「壁」の問題だけでなく、国民の生活実態や国際的な水準を踏まえ、基礎控除や給与所得控除といった「額」そのものが適切なのか、という本質的な視点からの議論が不可欠となるでしょう。

参照元

  • Yahoo!ニュース / PRESIDENT Online