なぜ今、「愛子天皇」を望む声が広がるのか。皇室史に造詣が深い宗教学者の島田裕巳氏は、その背景には愛子内親王殿下が象徴天皇制における皇族としての振る舞いを自然と身につけておられるという点が大きいと指摘する。その点で、殿下は「別格」の存在であるという見方を示す。
陛下のお立場と「親の想い」
現在の天皇陛下には、愛子内親王殿下というお一人のお子様がいらっしゃる。現行の皇室典範では、女性が天皇に即位すること、あるいは皇太子となることは規定されていない。かつて皇太子が不在だった時代もあるが、それは異例の状況だった。現在、陛下には皇嗣である秋篠宮殿下がいらっしゃるが、皇太子は立てられていない。現行制度下では、秋篠宮殿下が即位されない限り、その長男である悠仁親王殿下が皇太子となることもない。
このような状況は、天皇陛下の立場からすると、非常に微妙なものと言える。加えて、国会では皇統の将来的な安定と皇族数の確保に向けた議論が進められてきたが、具体的な法案には至っていない。こうした議論が、当事者である天皇陛下や皇族方が直接関与しないまま進められている現状がある。
天皇陛下にとって、こうした皇位継承や皇族数の問題は無関心ではいられない重要事であるはずだ。国民以上に強い関心と危機感を持っておられると推察される。しかし、そのお立場から、直接的にこうした問題について公に発言することは許されていない。
島田氏は、この状況を、自身も娘しかいない父親としての心境と重ね合わせる。子どもに何かを継いでほしいという親の想いは、立場は違えど存在するのではないかという視点だ。かつて学者の世界で、優秀な弟子と娘を結婚させて後継者とする例があったことなどにも触れ、継承への意識が形を変えて存在することを指摘している。
現行制度と皇位継承議論の現状
現在の皇室典範は、皇位継承資格者を父系の男子に限定している。これにより、愛子内親王殿下は現在の制度下では皇位を継承できない。国民の間では、女性天皇や女系天皇を認めるべきだという意見も根強く存在する一方で、伝統的な男系継承を堅持すべきだという意見もあり、国論は二分されている状況だ。
国会での議論は、皇族数の減少という喫緊の課題に対応するため、女性皇族が結婚後も皇室に残る案や、旧宮家の男系男子を養子に迎える案などが検討されてきた。しかし、最終的な結論には至らず、議論は継続中である。この間、天皇陛下や皇族方は、自身の将来や皇室のあり方に関わる重要な問題について、公的な場で意見を述べることができないという状況が続いている。
この制度的な制約と、国民の多様な意見、そして皇室自身の置かれている状況が複雑に絡み合い、「愛子天皇」待望論が高まる土壌となっている。国民は、愛子内親王殿下の成年皇族としての活動や、両陛下とご一緒の姿に触れる中で、そのお人柄や適性を感じ取っているのだろう。
沖縄訪問に見る陛下のメッセージ
発言が許されない状況下でも、天皇陛下は行動を通じてメッセージを示すことができる。島田氏は、2025年6月4日から5日にかけて行われた、愛子内親王殿下を伴っての天皇皇后両陛下の沖縄ご訪問が、そうした陛下の「行動による発信」だったのではないかと分析している。
2025年6月5日、沖縄にて、対馬丸慰霊碑に供花される天皇皇后両陛下と愛子内親王殿下。皇位継承議論の文脈で注目されたご訪問
この沖縄訪問では、両陛下と愛子内親王殿下が共に、第二次世界大戦中の学童疎開船「対馬丸」の犠牲者を悼む慰霊碑「小桜の塔」を訪れ、供花された。皇室にとって沖縄は、先の戦争における犠牲者を慰霊し、平和を希求する重要な訪問先であり、これまでも両陛下は度々足を運ばれてきた。
ここに愛子内親王殿下が初めて同行されたことには、特別な意味があると考えられている。島田氏は、これが皇位継承を巡る議論が続く中で、陛下が国民や政治に対して、愛子内親王殿下を皇室の未来の一員として、そして将来を担う可能性のある存在として静かに示された行動である可能性を指摘する。公の場で直接語ることはできずとも、このように次代を担う皇族を伴って重要な公務に臨む姿勢を示すことで、陛下のお考えの一端が表れているのではないか、というのが島田氏の見立てだ。
結論
宗教学者である島田裕巳氏の分析からは、「愛子天皇」待望論の背景には、愛子内親王殿下ご自身の皇族としての資質に加え、天皇陛下が直面されている皇位継承を巡る微妙な立場、そして国会での議論が進まない現状があることが浮かび上がる。特に、陛下が公に発言できない状況下で、愛子内親王殿下を伴った沖縄訪問のような公的な行動が、陛下の皇室の将来に対する深い想いを示すものとして解釈される可能性が示唆された。こうした複合的な要因が、「愛子天皇」を望む国民の声となり、待望論という形で現れていると言えるだろう。
参考:プレジデントオンライン (Yahoo!ニュース掲載)