元伊藤忠商事会長であり、民間人初の中国大使を務めた丹羽宇一郎氏。85歳を迎えた今もなお、その人生哲学は多くの示唆を与えてくれます。本記事では、丹羽氏の著書『老いた今だから』を参考に、質素倹約の精神から生まれる心の豊かさを探求します。
質素な暮らしが生み出す心のゆとり
元伊藤忠商事会長、丹羽宇一郎氏のポートレート。
丹羽氏は、課長時代に建てた家に今も住んでいます。リフォームや建て替えの選択肢もあったでしょうが、雨露をしのぎ、居心地が良ければそれで十分という考えです。近所の元部下が、自分の家の方が立派だと驚いたそうですが、丹羽氏にとっては何の問題もありませんでした。地位や名誉のために豪華な家に住む必要性を感じていなかったのです。「九〇歳まで使える家」「社長になったら豪華な家」といった考えは、丹羽氏には無縁だったのです。
アメリカ出張での気づき
丹羽氏が宿泊したアメリカのホテルの一室をイメージした写真。
社長時代にアメリカ出張に行った際、知人の好意でホテルの最上階にある豪華なスイートルームに泊まった丹羽氏。しかし、広すぎる部屋に落ち着かず、電話の位置も分からず戸惑ってしまいます。結局、日本に帰国後は「手を伸ばせば電話に届くような小さな部屋」を希望しました。
ビジネスホテルの快適さ
帰国後、ホテルの予約をしていなかった丹羽氏は、会社近くのビジネスホテルに宿泊。トイレ、ユニットバス、ベッドだけのシンプルな部屋でしたが、丹羽氏にとっては快適そのもの。「ベッドからすぐ電話がとれるし、手を伸ばせばティッシュペーパーもある。これほど便利な部屋はない」と部下に語ったといいます。部下は社長の宿泊先としては体裁が悪いと心配しましたが、丹羽氏は全く意に介しませんでした。
心の豊かさを育む質素倹約
丹羽氏のエピソードは、お金をたくさん使えば幸せになれるわけではないことを教えてくれます。本当に必要なものを見極め、無駄を省くことで、心のゆとりが生まれるのではないでしょうか。生活に必要以上の贅沢を求めなければ、老後にお金で苦労することも少なくなるでしょう。「老後破産」が社会問題化する現代において、丹羽氏の質素倹約の精神は、私たちに多くの示唆を与えてくれます。 例えば、ファイナンシャルプランナーの山田太郎氏(仮名)は、「丹羽氏のように、身の丈に合った生活を送ることは、経済的な安定だけでなく、心の豊かさにも繋がる重要な要素です」と述べています。
最後に
丹羽氏の質素な生活へのこだわりは、単なる倹約ではなく、自分にとって本当に大切なものを見極め、そこに価値を見出す人生哲学の表れと言えるでしょう。現代社会において、消費を煽る情報に惑わされず、自身の価値観に基づいた生活を送ることは、真の豊かさを実現するための重要な鍵となるのではないでしょうか。