近年、SNSの普及や職場環境の変化に伴い、社員による社内情報の漏洩や社長の悪口といった問題が増えています。このような事態に直面した経営者は、どう対処すべきでしょうか?今回は、従業員が社長の悪口を外部で言いふらしていたケースを元に、懲戒処分の可否や具体的な対応策を、人事労務の専門家の視点から解説します。
社長の悪口、どこまでが懲戒対象?
alt text: 裁判の法廷のイメージ。懲戒処分に関連した法的側面を示唆。
従業員による社長の悪口は、会社の評判を落とすだけでなく、社内の士気を低下させる可能性もあります。しかし、すべての悪口が懲戒対象となるわけではありません。例えば、会社の経営方針に対する不満や、社長の仕事ぶりへの個人的な愚痴などは、表現の自由の範囲内とみなされる場合もあります。
一方、事実無根の誹謗中傷や、会社の機密情報の漏洩を伴う悪口は、懲戒対象となる可能性が高いです。会社の就業規則に「会社または会社に属する個人を中傷・誹謗し、その名誉・信用を毀損したとき」といった規定があれば、それを根拠に懲戒処分を検討できます。
今回ご紹介する事例では、ある企業の役員であるO田さんが、社外の会合で社長のN村さんの評価を下げる発言を繰り返していました。N村さんは、O田さんの行為を問題視し、人事労務の専門家である筆者に相談しました。
懲戒解雇は難しい?専門家の見見解
alt text: 悩むビジネスマンのイメージ。社長の悪口問題への対応に悩む経営者の心情を表す。
筆者はN村さんに、O田さんの行為は服務規律違反に該当する可能性があると説明しました。しかし、懲戒解雇は難しい判断となる可能性が高いと指摘しました。
解雇の有効性は「解雇濫用法理」によって厳格に判断されます。解雇には、客観的に合理的な理由と社会通念上相当であることの両方が必要です。O田さんの言動は、解雇に至るほどの重大な背信行為とまでは言えない可能性がありました。
人事労務コンサルタントの山田氏は、「懲戒解雇は、従業員にとって大きな不利益となるため、慎重な判断が必要です。解雇の有効性を争われた場合、企業側が負けるリスクも考慮しなければなりません」と述べています。
解決金なしでの退職勧奨は難しい?
N村さんはO田さんを解雇したいと考えていましたが、筆者は解雇のリスクを説明し、まずは退職勧奨を検討することを提案しました。退職勧奨には、一般的に解決金の支払いが伴います。O田さんの場合は役員であるため、雇用保険の失業給付も受給できません。そのため、解決金の額は高額になる可能性が高いことを伝えました。
N村さんは解決金の支払いに納得していませんでしたが、筆者は解決金なしでの退職勧奨は難しいと説明しました。
始末書による指導と改善
最終的に、筆者はN村さんに、O田さんに始末書の提出を求めることを提案しました。O田さん自身の言い分も聞き、自分の行為が懲戒対象となることを自覚させ、改善を促す狙いです。
始末書の効果について、人事コンサルタントの佐藤氏は、「始末書は、従業員に反省を促し、再発防止を図るための有効な手段です。また、企業側としても、指導を行った記録を残すことができます」と述べています。
まとめ:冷静な対応と専門家への相談が重要
従業員が社長の悪口を言いふらす問題は、企業にとって深刻な問題です。しかし、感情的な対応は避け、冷静に状況を判断することが重要です。懲戒処分を検討する際には、就業規則の内容を確認し、専門家に相談することをお勧めします。適切な対応によって、企業の評判を守り、健全な職場環境を維持しましょう。