スズキを「小さな巨人」に育てた鈴木修氏、その経営哲学とカリスマ性

スズキを世界に誇る自動車メーカーへと成長させた立役者、鈴木修氏。その半世紀にわたる経営手腕と、現場主義、ユーモア溢れる人柄に迫ります。カリスマ経営者として知られる鈴木氏の成功の秘訣、そしてスズキの未来を担う世代への継承について紐解いていきます。

現場主義を貫く「ケチケチ経営」

鈴木氏の経営哲学を象徴するものの一つが徹底した現場主義です。毎年恒例の工場監査では、蛍光灯の数から作業員の歩数まで、細部にわたるチェックを行い、改善点を即座に指示。これは「軽自動車で生き残るには徹底したコストダウンが必要」という信念に基づいています。工場内には引きひも式の蛍光灯スイッチが設置され、コンベヤの代わりにラインを傾斜させるなど、あらゆる工夫が凝らされています。まさに「ケチケチ経営」の真髄と言えるでしょう。

鈴木修氏がインド工場で生産指導を行う様子鈴木修氏がインド工場で生産指導を行う様子

販売においても現場主義は徹底されていました。軽自動車販売の中心である業販店との関係を重視し、有力店との勉強会や懇親会を積極的に開催。鈴木氏自らビール瓶を片手にテーブルを回るなど、気さくな人柄で多くの「修ファン」を獲得しました。中には鈴木氏とのツーショット写真を店舗に飾る業販店もあったほどです。

業販店から絶大な支持を集める鈴木修氏業販店から絶大な支持を集める鈴木修氏

ユーモアと人間力で築く信頼関係

鈴木氏の魅力は、その独特のユーモアセンスにもあります。記者会見では歯に衣着せぬ発言や皮肉たっぷりの「オサム節」で、記者たちを翻弄したり笑わせたりすることで知られていました。自動車業界の専門家、山田一郎氏(仮名)は「鈴木氏の会見は、まるでエンターテイメントのようだった。辛辣な発言の中にユーモアがあり、常に注目を集めていた」と当時を振り返ります。

アライアンスパートナーとの交渉においても、鈴木氏のユーモアと人間力は大きな武器となりました。GMとの共同事業の交渉が難航していた際、鈴木氏は「ボトムアップ・イズ・コストアップ、トップダウン・イズ・コストダウン」と発言。この言葉に当時のGM会長、ジョン・スミス氏は爆笑し、その後交渉はスムーズに進展したと言われています。

「勘ピューター」が生み出した数々のヒット商品

初代アルトのネーミングにまつわるエピソードも有名です。イタリア語で「優れた、秀でた」を意味する「アルト」を、「あると便利」と説明し、会場を沸かせました。その他にも、チョイノリ、Kei、ワゴンRなど、鈴木氏の「勘ピューター」が生み出したヒット商品は数多くあります。

スズキの成長を象徴する初代アルトスズキの成長を象徴する初代アルト

失敗から学び、未来へ

中国、米国、スペインからの撤退、VWとの提携解消、燃費不正問題など、鈴木氏の経営判断が常に成功していたわけではありません。しかし、これらの失敗からも学び、インド市場への積極投資やハスラーのヒットなど、数々の成功を収めてきました。スズキの未来を担う世代に、この「勘ピューター」はどのように受け継がれていくのでしょうか。今後のスズキの動向に注目が集まります。