福田和也氏、享年63歳という若さでこの世を去りました。読書家、批評家として多くの読者を魅了した氏の急逝は、日本文学界にとって大きな損失と言えるでしょう。本稿では、氏の功績を振り返るとともに、青土社から刊行された『ユリイカ 総特集・福田和也』を読み解きながら、氏の批評家としての軌跡、そして氏が活躍した「雑誌の時代」について考察します。
雑誌の黄金期を駆け抜けた批評家
福田和也氏は、まさに「雑誌の時代」を体現する批評家でした。かつて、雑誌は隆盛を極め、質の高い記事、斬新な視点が読者をつかみ、多くの書き手が活躍しました。福田氏もその一人で、様々な媒体で鋭い批評を展開し、多くの読者に影響を与えました。
椎名誠氏と並び称されることもあった福田氏。酒を愛し、子を持つ父親という共通点だけでなく、旺盛な執筆活動も共通していました。両氏とも百冊を超える著作を世に送り出し、日本の文壇に大きな足跡を残しました。
2024年9月20日に亡くなった福田和也さん
編集者との出会い:佐々木秀一氏との邂逅
『ユリイカ』総特集では、福田氏の師である古屋健三氏をはじめ、児島やよい氏、伊藤彰彦氏など、ゆかりの人々が福田氏との思い出を語っています。特筆すべきは、福田氏を支えた編集者たちの存在です。中でも、国書刊行会の佐々木秀一氏との出会いは、福田氏の批評家人生に大きな影響を与えました。
佐々木氏は、当時タブーとされていた対独協力作家(コラボラトゥール)に注目し、シリーズ化を構想していました。しかし、周囲の理解を得られず苦悩していたところ、福田氏と出会います。福田氏の斬新な発想と強い信念に感銘を受けた佐々木氏は、福田氏にシリーズの編集を依頼。これが福田氏の処女作『奇妙な廃墟』へと繋がります。
「正しい意見」よりも「力のある信念」
佐々木氏は、「編集者が求めるのは”正しい意見”ではなく”力のある信念”だ」と語っています。これは、まさに「雑誌の時代」の編集者の精神を象徴する言葉と言えるでしょう。既存の価値観にとらわれず、新しい視点、強い信念を持つ書き手を発掘し、世に送り出す。それが編集者の役割であり、福田氏はそのような編集者たちに見出され、才能を開花させたのです。
『ユリイカ』総特集:福田和也氏の魅力を再発見
500ページを超える大ボリュームの『ユリイカ 総特集・福田和也』は、福田氏の批評家としての軌跡を辿るだけでなく、「雑誌の時代」の熱気、そして編集者と書き手の強い絆を伝えています。福田氏の著作に触れたことのない方はもちろん、かつて氏の批評に心を揺さぶられた読者にとっても、改めて氏の魅力を再発見できる一冊となっています。
2024年9月に急逝した批評家の福田和也を悼んだ500ページ超の特別号
福田和也氏の遺したもの
福田氏の批評は、時に辛辣で、時にユーモラス。しかし、そこには常に揺るぎない信念と深い洞察がありました。氏の残した著作は、これからも多くの読者を刺激し、新たな思考の扉を開くことでしょう。福田和也氏、その名は日本の批評史に深く刻まれることでしょう。