ニュースで「国民の平均年収」が発表されるたび、「自分の実感と違うな」と感じる方は多いのではないでしょうか。それもそのはず、平均年収と中央値(データを小さい順に並べたときちょうど真ん中にくる値)は異なるものであり、雇用形態や属性によって年収は大きく異なります。平均年収が自分より高く感じたり、あるいは低く感じたりするのはごく自然なことです。では、「普通の人の年収」とはどのように調べればよいのでしょうか。本記事では、国税庁の統計データを基に、日本の給与所得者の実態に迫り、「普通とは何か」を探ります。
平均給与と正規・非正規の明確な格差
国税庁は毎年、「民間給与実態統計調査」という統計を発表しています。最新の令和5年分調査によると、1年を通じて勤務した給与所得者の平均給与は460万円でした。この金額には、給与、手当、賞与が含まれます。この平均給与を、正社員(正職員)とそれ以外の区分で見たのが以下の図表1です。
令和5年分の正規・非正規別平均給与を示す棒グラフ。正規雇用と非正規雇用の年収差が一目でわかる統計データ。
図表1:正規・非正規別の平均給与(令和5年)
国税庁 令和5年分民間給与実態統計調査より筆者作成
図表1からわかるように、正社員(正職員)の平均給与は585万円、正社員以外は205万円となっており、両者の間には380万円もの大きな差があります。特に、正社員の男性(643万円)と正社員以外の女性(163万円)を比較すると、その差は480万円にも達し、雇用形態と性別による顕著な格差が浮き彫りになっています。この統計は事業者が支払った給与額に基づいているため、副業などで複数の事業者から給与を得ている場合は、それぞれが給与所得者として集計される場合がある点に留意が必要です。
給与階級別の分布と中央値の推定
次に、給与の階級別分布を見てみましょう。これは、給与額を「100万円以下」から「2500万円超」まで段階的に区切り、それぞれの階級に属する給与所得者の割合を示した統計です。以下の図表2をご覧ください。
令和5年分の給与階級別分布を示す円グラフ。年収400万円以下の割合が半数を超えることが視覚的に示されている。
図表2:給与階級別分布(令和5年)
国税庁 令和5年分民間給与実態統計調査より筆者作成
図表2の円グラフを見ると、最も割合が多い階級は「300万円超 400万円以下」で全体の16.3%を占めています。次に多いのは「400万円超 500万円以下」で15.4%です。これらのデータから、年収400万円以下の人が全体の半数以上を占めていることがわかります。それにもかかわらず、平均給与が460万円になるのは、一部の高年収層が平均値を引き上げているためと考えられます。
「普通の年収」とは何か?統計からの示唆
国民の中で最も人数が多い、すなわち「最頻値」の階級を「普通」と捉えるならば、令和5年においては「年収300万円台」が最も一般的な収入層であると言えるでしょう。国税庁はこの統計で年収の中央値を公表していませんが、階級別分布のデータから推定すると、ちょうど真ん中に位置する中央値は「おおよそ300万円台後半」にある可能性が高いと予測されます。これは、平均値である460万円よりもかなり低い水準です。
結論:平均値だけでは見えない日本の給与実態
国税庁の「民間給与実態統計調査」は、日本の給与所得者の収入状況を理解する上で非常に価値のあるデータを提供しています。しかし、平均給与460万円という数字だけを見ると、多くの人の実感と乖離があるのは、高収入層が平均値を押し上げているためです。給与階級別分布を見ると、最も多くの人が集まるのは300万円台であり、中央値もその近辺にあると推測されます。したがって、「普通の人の年収」という観点では、平均値よりも中央値や最頻値(最も多い階級)に注目することが、より実態に近い理解を得るために重要です。正規雇用と非正規雇用の間の大きな年収差も、日本の給与構造における重要な特徴と言えます。
出典:
国税庁 令和5年分民間給与実態統計調査