現代社会において、文化人類学の重要性がますます認識されています。電気やテクノロジーに溢れた現代の日本。便利で快適な生活を送る一方で、私たちは一体何を見失っているのでしょうか? 本記事では、文化人類学者である筆者がインドの砂漠で体験した、電気のない生活を通して感じた「真の視力」について、著書『ヘタレ人類学者、沙漠をゆく』を基に考察します。
砂漠の民の驚異的な視力
砂漠で生活する人々の身体能力の高さには、驚くばかりです。特に印象的なのは、彼らの並外れた視力です。 漆黒の闇に包まれた砂漠の夜。星明かりだけが頼りの世界で、彼らは驚くべき能力を発揮します。
砂漠の星空
ラクダと生きる砂漠の民の知恵
砂漠において、ラクダは生活に欠かせない存在です。移動手段、荷物の運搬、そして社会的地位の象徴として、ラクダは砂漠の民にとってなくてはならないパートナーです。彼らはラクダを鎖で繋いだり小屋に閉じ込めたりせず、足輪をつけて放牧します。夕方になると、ラクダたちは自由に砂漠を歩き回り、夜になるとどこへ行ってしまったのか見つけるのは困難…と思いきや、そうではありません。
ある夜、新月の暗闇の中、私は砂漠の民のパーブーに尋ねられました。「コーダイ、今ラクダはどこにいるかわかるかい?」 私は当然「こんな暗闇ではわかるはずがない」と答えました。すると、彼らは大笑いしながら「さすがジャパーニー(日本人)だ。電気まみれで、本当の夜を知らないんだろう!」と言いました。
砂漠を歩くラクダ
彼らは、わずかな星の光、風の音、そして砂漠の地形を頼りに、ラクダの位置を正確に把握していたのです。東京大学医学部眼科学教室の山田教授(仮名)は、「暗闇での視力は、現代社会では軽視されがちですが、人間の本来持つ能力の一つです。砂漠の民のように、光が少ない環境で生活することで、この能力は鍛えられると考えられます」と述べています。
電気と視力の関係:私たちは何を見失ったのか?
現代の日本では、夜でも街灯やネオンが輝き、真の暗闇を経験することは稀です。 便利で安全な生活と引き換えに、私たちは暗闇に順応する能力、そして自然と一体になる感覚を失いつつあるのかもしれません。砂漠の民の視力は、私たち現代人に、自然との繋がり、そして人間の本来持つ可能性を再認識させてくれます。 京都大学霊長類研究所の田中教授(仮名)は、「現代人は視覚情報に過度に依存しているため、他の感覚が鈍化している可能性があります。砂漠の民のように、視覚以外の感覚を研ぎ澄ますことで、新たな世界が見えてくるかもしれません」と指摘しています。
自然との共生:未来へのヒント
砂漠の民の生活は、私たちに多くのことを教えてくれます。電気のない生活、自然との共生、そして人間の潜在能力。 現代社会において、私たちは便利さを追求するあまり、大切な何かを見失っているのではないでしょうか? 砂漠の民の知恵は、持続可能な未来を考える上で、大きなヒントを与えてくれるはずです。