ドイツ発!EVシフトの波乱:補助金打ち切りで揺らぐ欧州自動車市場の行方

欧州連合(EU)が2035年までにガソリン車の新車販売を禁止する方針を打ち出し、電気自動車(EV)への移行が加速する中、皮肉にもEV需要の減速という逆風が吹き荒れています。補助金打ち切りをきっかけに揺らぐ欧州市場、そして大手自動車メーカーの戦略転換の背景を探ります。

EV需要の急ブレーキ:補助金打ち切りが引き金に

「EVへの急速なシフトは失敗だった。日本メーカーのように、多様な車種をバランス良く展開するべきだった」

これは、欧州のある自動車メーカー関係者の言葉です。2024年に入り、欧州自動車工業会が発表する主要31カ国の新車販売台数において、EVの販売は鈍化し、前年割れする月が目立つようになりました。

特に深刻な状況にあるのがドイツです。2024年8月には、EV販売台数が前年同月比で約70%も減少しました。この急激な落ち込みの背景には、2023年12月に突然打ち切られたEV補助金プログラムの存在があります。高額なEV購入を後押ししていた補助金が消滅したことで、消費者の購買意欲が冷え込んだとみられています。

当初、新型コロナウイルス対策の余剰予算を活用し、2024年末まで補助金プログラムを継続する予定でした。しかし、ドイツ憲法裁判所がこの措置を認めず、政府はプログラムの中止を余儀なくされました。さらに、予算編成を巡る対立により連立政権が崩壊、2025年2月に総選挙が予定されるなど、政治の不安定さが増しています。そのため、EV優遇措置の復活は当面見通せない状況です。

alt ドイツのフォルクスワーゲン工場。EV販売不振の影響を受けているalt ドイツのフォルクスワーゲン工場。EV販売不振の影響を受けている

大手メーカーの戦略転換:EV一辺倒からの脱却

EVシフトを推進してきた欧州ですが、需要減速を受け、大手メーカーも戦略の見直しを迫られています。

メルセデス・ベンツグループは2024年2月、「2030年までに全車種をEV化」という目標を撤回しました。「顧客に押しつけてまで目標達成を目指すのは合理的ではない」と述べ、需要鈍化を理由に挙げています。

ボルボ・カーも2024年9月、「2030年までに全販売車をEV化」という計画を撤回すると発表。「電動化と持続可能性のリーダーシップは維持するが、現実的かつ柔軟な姿勢で取り組む」とし、EV偏重からの転換を表明しました。

自動車業界に精通するアナリスト、田中一郎氏(仮名)は、「補助金頼みのEV普及政策は持続可能ではない。各メーカーは市場の動向を冷静に分析し、柔軟な戦略を立てる必要がある」と指摘しています。

alt 新型EVの充電風景。EV普及にはインフラストラクチャ整備も課題alt 新型EVの充電風景。EV普及にはインフラストラクチャ整備も課題

さらに、アップルが「アップル・カー」の開発を中止したほか、フォルクスワーゲンはEV販売不振による業績悪化を受け、ドイツ国内工場の閉鎖を一時検討するなど(その後回避)、EVシフトの見直しは加速しています。

欧州自動車市場の未来:持続可能な成長に向けて

補助金打ち切りを契機に、欧州自動車市場は大きな転換期を迎えています。EVシフトの速度調整、多様なパワートレインの併存、そして持続可能な成長戦略の構築が、今後の鍵となるでしょう。 欧州市場の動向は、世界の自動車産業にも大きな影響を与えるため、今後も注視していく必要があります。