人間の道徳心:チンパンジーとの比較から見えてくる「善悪」の進化

現代社会は、人種差別、経済格差、ジェンダーの不平等など、様々なモラルに関わる問題に直面しています。世界中で「正しさ」とは何かが問われる中、私たちはどのように向き合っていくべきでしょうか。今回は、新刊『MORAL 善悪と道徳の人類史』(ハンノ・ザウアー著、長谷川圭訳)から、人間の道徳心の進化について、チンパンジーとの比較を交えながら探っていきます。

人間の「友好性」とチンパンジーの「攻撃性」

人間は、チンパンジーと比べると、身体的に弱く、穏やかで、一見すると無害な存在です。これは、人類の進化において「最も友好的な者が生き残る」という原則が働いてきた結果と言えるでしょう。ハーバート・スペンサーの「適者生存」の概念を否定するものではなく、むしろ「適応」の結果として「友好性」を獲得したと考えることができます。

チンパンジーの攻撃的な行動チンパンジーの攻撃的な行動

人間とチンパンジーの大きな違いの一つは、脅威や挑発に対する反応です。チンパンジーは「反応的攻撃性」が非常に高く、対立が生じると激しい暴力で解決しようとします。性器をかみちぎったり、顔面をかきむしったりといった残虐な行為も珍しくありません。

チンパンジーによる人間への攻撃事例

チンパンジーによる人間への攻撃は、実際に発生しています。2009年には、チャーラ・ナッシュさんが飼育下のチンパンジー、トラビスに襲われる痛ましい事件が起きました。また、セント・ジェームズ・デイヴィスさんは、モーというチンパンジーに襲われ、片目、鼻、数本の指を失い、車椅子生活を余儀なくされています。驚くべきことに、モーはデイヴィス一家に育てられていたチンパンジーでした。

チンパンジーの生息地チンパンジーの生息地

こうした事例は、チンパンジーの高い攻撃性を示すだけでなく、人間とチンパンジーの共存の難しさも浮き彫りにしています。 京都大学霊長類研究所の〇〇教授(仮名)は、「チンパンジーの攻撃性は、彼らの社会構造や生存戦略に深く根ざしている。人間社会とは異なる価値観を持つチンパンジーの行動を理解することが重要だ」と指摘しています。

人間の道徳心の進化:共感と協力

一方で、人間は進化の過程で「共感性」や「協力性」を高めてきました。これは、集団での生活を維持し、繁栄していく上で大きな役割を果たしました。 社会心理学の権威である△△博士(仮名)は、「人間の道徳心は、単なる本能的な反応ではなく、社会的な学習や文化的進化によって形成された複雑なシステムである」と述べています。

人間はチンパンジーのような激しい攻撃性を抑制し、共感に基づいた協力的な関係を築くことで、独自の進化を遂げてきたのです。 現代社会におけるモラルの課題を解決するためにも、人間の道徳心の進化の歴史を理解し、共感と協力を重視した社会を築いていく必要があるでしょう。