厚生年金の積立金活用を含む年金改革関連法案が、先日、衆議院本会議で可決され、衆院を通過しました。この法案は、基礎年金の底上げを目指すものですが、その内容と可決に至るまでの経緯には、財源問題を巡る複雑な政治的な駆け引きがありました。ジャーナリストの須田慎一郎氏は、この法案の通過を「極めて不十分」と評価し、今後の財源議論がかつての消費税増税議論と同じ流れをたどる可能性を示唆しています。
法案の衆院通過とその内容
5月30日に行われた衆議院本会議において、年金改革関連法案は、自民党、公明党、立憲民主党の賛成多数で可決されました。この法案が目指す主要な点は、現在の基礎年金受給額の不十分さを解消することです。現状、40年間保険料を納めても基礎年金は約6万6000円に留まり、マクロ経済スライドによる将来的な実質減額も懸念されています。老後の生活を支えるには心許ないこの金額を「底上げ」する必要性が指摘されていました。
基礎年金「底上げ」巡る政治的経緯
当初、自民・公明両党は、厚生年金の積立金の一部を基礎年金に充てることで、基礎年金の底上げを実現する案を提示していました。しかし、この方法は将来的に厚生年金の一部受給者の受給額減につながる恐れがあり、「積立金の流用」「付け替え」との批判を招きました。特に、7月に参議院選挙を控える中で、世論の反発を避けるため、与党はこの「積立金充当」部分を法案から削除し、実質的な内容を伴わない「形だけ」の法案成立を図ろうとしました。
年金制度改革法案の修正合意後、写真に納まる野田代表、石破首相、斉藤代表
これに対し、立憲民主党は、積立金充当部分が削除された法案を「あんのないアンパン」と厳しく批判。内容の不十分さを指摘し、削除された積立金充当プランを再度盛り込むよう強く要求しました。これは事実上、「(法案に)あんこを入れ直せば賛成する」という意思表示でした。
自民・公明両党にとって、立憲民主党からの賛成は法案可決・成立の大きな助けとなります。そのため、与党は立憲民主党の要求を受け入れ、積立金充当部分を再び盛り込む形で法案を修正しました。この修正案が衆議院本会議で可決され、法案の衆院通過に至ったのです。
公的年金の将来財政見通しに関する図表
注: 提供された図表は将来の公的年金の財政見通しを示しています。
識者の見解と今後の財源議論
ジャーナリストの須田慎一郎氏は、今回衆院を通過した法案の内容を「極めて不十分」と断じています。法案が抱える財源問題などを根本的に解決するため、今後は国会に新たな協議体が設置される見込みです。須田氏は、この動きがかつて民主党政権下で行われた「税と社会保障の一体改革」議論と酷似している点を指摘。これは、再び消費税増税に向けた議論が本格的に動き出したことを意味すると分析しています。今回の年金改革法案の衆院通過は、将来的な日本の税制・社会保障制度全体に大きな影響を与える可能性を秘めています。
今回の年金改革関連法案の衆院通過は、基礎年金の財源確保という課題に対し、与野党間の複雑な駆け引きを経て実現しました。特に、立憲民主党の要求を取り込む形で厚生年金積立金の活用が再び盛り込まれた点は注目されます。この法案通過を機に設置される協議体での議論が、ジャーナリストが指摘するように、消費税を含む税制全体の議論へと発展していくのか、今後の動向が注視されます。