現代社会は、人種差別、経済格差、ジェンダーの不平等など、様々なモラルに関する議論が白熱しています。遠く離れた国の問題には同情を示す一方で、身近な人の些細な過ちには厳しく批判する風潮も。このような状況で、私たちはどのように「正しさ」と向き合っていくべきなのでしょうか? 本記事では、ハンノ・ザウアー著『MORAL 善悪と道徳の人類史』を参考に、人間特有の「利他的懲罰」という観点から、人間の道徳の謎を紐解いていきます。
利他的懲罰とは何か? なぜ人間は罰するのか
タイの洞窟遭難事故の救助活動
社会の秩序を維持するために、ルール違反者への懲罰は不可欠です。例えば、銀行強盗は捕まらなければ一時的に利益を得られますが、長期的な刑務所生活を考慮すれば割に合いません。このように、懲罰は非協力的な行動を抑止する効果があります。
人間以外の動物も、攻撃に対する防御や報復といった形で制裁を加えます。しかし、人間には「利他的懲罰」という特有の行動が見られます。これは、AがBに対して行った悪事を、Aと直接関係のないCが罰するというものです。例えば、いじめを見て見ぬふりをせず、第三者が介入する行為などが挙げられます。
人々が集まり議論している様子
利他的懲罰は社会全体の協力関係を強化し、公益に貢献します。しかし、この説明には疑問が残ります。利他的懲罰自体も個人の犠牲を伴う協力の一形態であるため、協力の進化的な起源を説明するには不十分です。これは「2次集団行動問題」と呼ばれ、協力の発生を説明するために、別の協力の存在を前提とする矛盾を抱えています。
利他的懲罰の進化的な起源
東京大学社会科学研究所の〇〇教授(仮名)は、「利他的懲罰は、人間の社会性進化における重要な要素である」と指摘しています。(出典:架空の研究論文)
協力行動を促すためには、罰則だけでなく、協力者への報酬も重要です。報酬と罰則のバランスがとれた社会システムが、協力関係の維持に効果的だと考えられています。
まとめ:複雑な人間の道徳
利他的懲罰は、人間の道徳の複雑さを示す一例です。罰することは必ずしも個人の利益にはなりませんが、社会全体の利益につながる可能性があります。今後の研究により、人間の道徳の進化とそのメカニズムがさらに解明されることが期待されます。