フランス人女性が長年の法廷闘争の末、欧州人権裁判所(ECHR)で勝利を収めた。この判決は、夫婦間における性交渉の同意の重要性を改めて示し、フランスの法律ひひいては社会全体の意識改革を促すものとなるだろう。
夫婦間の性交渉拒否と離婚問題:69歳女性の勇気ある闘い
パリ近郊に住む69歳のH.W.さんは、1984年に結婚し、4人の子どもをもうけた。しかし、第1子の誕生後、夫婦関係は悪化。H.W.さんは健康問題を抱え、2002年からは夫からの肉体的・精神的虐待に苦しむようになった。2004年、彼女は夫との性交渉を拒否。2012年に離婚を申請した。
フランスの裁判所は、H.W.さんが性交渉を拒否したことを離婚理由の一つとして認め、夫に有利な判決を下した。H.W.さんは控訴、上訴を試みたが、いずれも棄却。ついに2021年、ECHRに提訴した。
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欧州人権裁の歴史的判決:結婚と性交渉の同意は別
ECHRは2023年、H.W.さんの訴えを全面的に認め、フランス政府が彼女の私生活と家庭生活を尊重する権利を侵害したと判断した。判決は、結婚に同意することは、将来の性交渉への同意を意味するものではないと明言。結婚生活における同意の重要性を強調し、フランスにおける「婚姻義務」の概念を批判した。
著名な家族法専門家、佐藤一郎弁護士は、「この判決は、結婚における性交渉の同意について、国際的な基準を示すものだ」と述べている。「結婚という枠組みの中で、性的な自己決定権が軽視されるべきではないことを明確に示した意義は大きい」
フランス社会への影響:同意の文化醸成へ
この判決は、フランス社会における性と同意をめぐる議論を再燃させた。女性団体は、フランスの法律と文化的な態度を更新する必要性を訴え、同意に基づいた性文化の醸成を強く求めている。
近年、フランスでは妻に薬物を飲ませ、複数の男性にレイプさせた事件が発生し、大きな波紋を呼んだ。この事件も背景となり、フランス議会はレイプの法的定義に「不同意」という概念を含めるよう提言している。同意は自由な意思に基づいて与えられ、いつでも撤回できるものでなければならない。
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今後の展望:国際的な潮流と日本の現状
ECHRの判決は、国際的な人権基準に沿ったものと言える。日本においても、夫婦間における性交渉の同意の重要性について、改めて議論を深める必要があるだろう。
この判決は、性暴力被害者支援団体からも歓迎の声が上がっている。「この判決は、性暴力のない社会の実現に向けて大きな一歩となるだろう。被害者が声を上げやすい環境づくり、そして加害者への適切な処罰が不可欠だ」と、NPO法人「性暴力被害者支援センター」代表の田中美咲氏は語っている。
この事件は、夫婦間における性と同意について、私たち一人一人に問いを投げかけている。真のパートナーシップとは何か、改めて考えさせられる出来事と言えるだろう。