カンボジアといえば、世界遺産アンコールワットを思い浮かべる方が多いでしょう。しかし近年、この美しい国は、特殊詐欺の拠点として暗い影を落とすようになってきました。一体なぜ、カンボジアは犯罪者にとっての「楽園」と化してしまったのでしょうか?この記事では、その舞台となっているシアヌークビルに焦点を当て、その現状と背景を探っていきます。
一帯一路の夢破れ、廃墟と化したリゾート都市
かつてシアヌークビルは、タイランド湾に面した静かな港町、そしてのどかなビーチリゾートでした。しかし、中国の習近平国家主席が提唱する巨大経済圏構想「一帯一路」の重要拠点として、この街は大きな転換期を迎えます。第二のマカオを目指し、カジノとリゾート開発が急速に進められました。しかし、コロナ禍、オンラインカジノ規制、そして中国経済の減速により、この壮大な計画は頓挫。開発途中のビルは放置され、街は廃墟と化してしまったのです。
シアヌークビルの廃墟
地元住民の声からは、開発の光と影が鮮明に浮かび上がります。近代化によって街の魅力が失われ、観光客が離れてしまったという嘆き。かつての静かなビーチリゾートへの郷愁。そして、開発失敗による経済的打撃。これらの負の側面が、犯罪の温床となる土壌を作り上げてしまったのです。
詐欺グループの拠点:現場からのルポ
2023年1月、日本人詐欺グループ19人がシアヌークビルで摘発された事件は、記憶に新しいところです。彼らは26都道府県の107人から、総額約10億7000万円を騙し取ったとされています。実際に彼らが拠点としていたというホテルを訪ねてみました。
ビーチに面した白い壁のホテルは、一見普通のリゾートホテル。しかし、高額な宿泊費設定や、従業員の証言からは、不穏な空気が漂っていました。従業員は、集団で宿泊する日本人グループに違和感を覚えていたといいます。クメール語が通じない彼らは、外部との接触を最小限に抑え、ひっそりと犯罪行為を続けていたのでしょう。
ホテル周辺にも、開発が中断されたリゾート施設が点在していました。人通りの少ない廃墟は、犯罪グループにとって格好の隠れ蓑となったのかもしれません。
シアヌークビルのホテル
専門家の見解:社会不安と貧困が犯罪を助長
カンボジアの犯罪問題に詳しい国際犯罪学者の佐藤健氏(仮名)は、次のように指摘します。「シアヌークビルの開発失敗は、社会不安と貧困を増大させました。職を失った人々は、犯罪に手を染めざるを得ない状況に追い込まれています。また、法整備の遅れや腐敗も、犯罪を助長する要因となっています」。
楽園を取り戻すために
シアヌークビルの現状は、開発の負の側面を浮き彫りにしています。楽園を取り戻すためには、経済の立て直し、雇用創出、そして法整備の強化が不可欠です。国際社会の協力も必要不可欠でしょう。
この問題は、カンボジアだけの問題ではありません。グローバル化が進む現代社会において、同様の問題は世界各地で発生しています。私たちは、この現状を直視し、持続可能な開発とは何かを改めて問い直す必要があるのではないでしょうか。