入院などで医療費が高額になった患者の自己負担を一定に抑える「高額療養費制度」について、政府は今年8月より負担額を引き上げる方針を決めた。石破茂首相は「現役世代の保険料負担を軽減するため」と説明するが、高齢者の在宅医療に従事する医師の木村知さんは「今回の『改悪』で被害を受けるのは高齢者よりも現役世代だ」という――。
■世界に誇るべき制度の危機
ことは緊急事態である。よって本稿では「小難しい理屈」をクドクドこねるつもりはない。いや、理屈をこねるまでもなく、この国に生きている人すべてが、とりあえず緊急に反対の声を上げるべき大問題が、今勃発している。
それは、昨年末に石破政権が閣議決定した「高額療養費見直し」のことだ。すでにSNSをはじめネットでも大きな話題となっているので、ここでは制度の詳細を説明することは割愛し、「見直し」の概略を簡単に述べるにとどめる。
わが国には、国民皆保険制度にくわえて高額療養費制度という、万が一、病気になったときでも、かかる医療費の自己負担額を軽減するための、世界に誇るべき制度がある。
しかし政府は、医療費が高額になった患者さんの自己負担を一定に抑えるセーフティーネット機能をもつ「高額療養費制度」を見直し、今年8月から2027年8月までに年収区分を細分化して段階的に引き上げる方針を示したのである。
もしこの政策が強行されれば、平均的な年収区分(約370万〜770万円)で最も負担が重くなるケースでは、現行の月約8万円が13万9000円と、なんと約6万円もひと月の負担が跳ね上がることになる。
■治療費の増加は新たな病気を引き起こす
がん患者さんをはじめとした継続的な治療が必要な人にとって、これは文字どおり「死活問題」だ。現行制度のもとでさえ、疾患そのものの負担にくわえて、治療費と生活費双方の負担が重くのしかかっている患者さんに、さらなる追い討ちをかける今回の「見直し」は、制度本来の意義を踏みにじる「改悪」と呼ぶべきだろう。
今以上に治療にかかる費用が増えることになれば、それを工面するために、食費をはじめとした生活費を削らねばならなくなる。かりにそれでなんとか治療を継続できても、食生活や生活環境の悪化は必至。むしろ新たな病気を生み出してしまうことにさえなりかねない。
この当然の理屈を理解できない人など、よもやいるまい。
「全国がん患者団体連合会」が今月17日〜19日におこなった緊急アンケートには、読むだけで思わず息が詰まる切実な声が寄せられている(東京新聞、1月29日付より抜粋)