経済発展を遂げた中国は、人々の感覚も洗練されかつてのような極端なエピソードは語られなくなったが、それでも面白い話があるという。大宅賞作家・安田峰俊が上梓した『 民族がわかれば中国がわかる 』より一部抜粋。日本では報じられない中国のB級ニュースをご紹介する。(全2回の前編/ 続き を読む)
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「組織利用邪教破壊法律実施罪」ほかで懲役25年
中国でもっとも面白いもののひとつが、現地のB級ニュースである。
かつては湖北省武漢市に偽物の人民解放軍が駐屯していて地域住民も3年間にわたり信じていた(1989年)とか、山西省太原で学生600人を集めて5年間にわたり開学していた人民解放軍空軍学校を名乗る教育機関が実はニセ学校であることがバレて閉鎖に追い込まれた(2004年)といった、スケールの大きな話が多かった。
ただ、近年は中国経済が発展を遂げて人々の感覚もスマートになったことで、これほど極端なエピソードはめったに聞かれない。
とはいえ、それでも面白い話はある。
たとえば2021年2月、山東省済南市の裁判所が、王興夫という初老の男に懲役25年の重刑を言い渡した一件だ。起訴容疑は違法経営罪・強姦罪および強制わいせつ罪――と、これだけならばありふれた事件に思えるが、彼に対してはさらに、「組織利用邪教破壊法律実施罪」という日本人には耳慣れない罪状も挙げられていた。
中国側の報道によると、王興夫は漢族であるにもかかわらず、四川省甘孜チベット族自治州の4名刹で修行したチベット仏教の活仏「洛桑丹真」を自称。チベット族(蔵族)としてのニセ身分証も取得していたという。
活仏はチベット仏教を特徴づける存在だ。日本語では漢字のイメージから「生仏」という訳語が充てられることもあるが、この表現はあまり正確ではなく、学術的には「化身ラマ」と呼ばれることが多い。すなわち、この世の一切衆生が悟り救われるまで、如来や菩薩の化身として輪廻転生を続けているとみなされた高僧のことである。