スペイン・マドリードの空港で、離陸直後の旅客機が鳥と衝突(バードストライク)し、緊急引き返すという重大な事故が発生しました。この事故により、わずか数週間前に商業運航を開始したばかりの最新鋭機が深刻な損傷を受け、航空業界におけるバードストライクの潜在的な脅威が改めて浮き彫りになっています。
離陸直後の衝撃と機体の深刻な損傷
英紙デイリーメールなどが5日に報じたところによると、事故に遭ったのはマドリードからフランス・パリへ向かう予定だったイベリア航空IB579便の旅客機です。この機体は離陸直後の2000メートル上空で鳥と衝突し、激しい衝撃と揺れに見舞われました。パイロットは状況を判断し、直ちに緊急帰還を決定。幸いにも、離陸からわずか20分で出発地のマドリード空港へ安全に着陸することができ、搭乗者全員にけがはありませんでした。
しかし、機体は想像以上に激しく損傷していました。鳥が気象レーダーを保護するカバーである「レドーム」に直接衝突した結果、機首の半分が破損し、内部のレーダーアンテナの部品がむき出しになるほどでした。さらに、旅客機と衝突した鳥はその後、機体の左側エンジンに吸い込まれたとみられ、SNS(交流サイト)に投稿された写真からは、左エンジンのファンのブレードが多数損傷している様子が確認されました。一部の写真には、衝突したとみられる鳥がエンジン側に落下する瞬間も捉えられています。
マドリード空港でバードストライクにより先端部分が大きく損傷したイベリア航空機の機首
最新鋭機を襲った予期せぬ事故
今回の事故に遭った旅客機は、エアバスの最新機種であるA321-253NY型機でした。この機体は商業運航を始めてからまだ数週間しか経過しておらず、文字通り「新型」の航空機であったことが注目されます。正確な価格は明らかにされていませんが、最低でも1億2000万ドル(日本円で約177億円)と推定される高価な機体であり、その深刻な損傷は航空会社にとって大きな経済的損失となります。
航空業界を悩ませるバードストライクの脅威と統計
バードストライクは、航空業界において代表的な危険要素の一つに挙げられます。主に航空機が低高度を飛行する離着陸時に発生しやすく、鳥の群れや大型の鳥との衝突は、エンジン故障や機体損傷といった深刻な事態を招く可能性があります。主要な空港では、バードストライクによる事故を防ぐため、滑走路周辺の野生動物を管理するさまざまな対策を講じていますが、それでもバードストライク関連の事故は毎年世界中で報告され続けています。
国際民間航空機関(ICAO)の報告によると、2011年から2014年の間に全世界で6万5000件以上のバードストライクが報告されています。また、米国では2023年だけで1万8394件のバードストライクが報告されており、これは同年に発生した野生動物との衝突事故全体の94%を占める突出した割合です。アジア地域でもこの傾向は顕著であり、韓国ではバードストライクの発生件数が2017年の218件から2023年には433件へと、わずか6年間でおよそ2倍に増加しています。これは、航空交通量の増加や生態系の変化など、複合的な要因が絡み合っている可能性を示唆しています。
航空安全における継続的な課題
今回のマドリードでのバードストライク事故は、最新の技術を搭載した新型機であっても、依然として鳥との衝突という予期せぬ脅威に直面していることを示しています。幸いにも乗員・乗客に被害はなかったものの、機体の大規模な損傷は、バードストライクが航空安全に与える影響の大きさを改めて浮き彫りにしました。航空業界は今後も、このような事故を未然に防ぐための技術開発と運用改善に、継続的に取り組んでいく必要があります。
参考文献
- 「デイリーメール」紙
- 朝鮮日報日本語版
- 国際民間航空機関 (ICAO) 報告書