才能とは? 青春「後」の新たな発見 又吉直樹さん新作「人間」

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3作目は自身最長となる原稿用紙約450枚。「前の2作より、登場人物も僕にかなり近い」と話す(萩原悠久人撮影)

3作目は自身最長となる原稿用紙約450枚。「前の2作より、登場人物も僕にかなり近い」と話す(萩原悠久人撮影)

 「昔からこれを書くのが分かってたみたいやな、って。書きながらそんな実感があった」。お笑い芸人で芥川賞作家の又吉直樹さん(39)の3作目となる小説『人間』(毎日新聞出版)は苦い青春の記憶と向き合いながら前に進む30代の男を描く。過剰な自意識と格闘する若者の痛みをすくい上げてきた又吉さんにとって、一つの区切りとなる長編だ。   (文化部 海老沢類)

 どんな小説にも当てはまりそうな、懐の深いタイトル。その話になると、又吉さんは「僕、『人間』って言葉にすごい敏感なんやと思うんです」と言って記憶をたぐり寄せた。

 「例えば、不動産屋で部屋借りようとしても芸人だと言うと『稼ぎがない』と普通に言われる。そんなことを慢性的に受けいれていくと自分を妖怪の類いにも感じる。同年代の平均を大きく下回っていて、人間のど真ん中にはおらへん、っていうか…。社会との関係が希薄だから、その言葉に興味を持つんですよね」

「何者か」に

 細々と文章やイラストを発表して生活する主人公の永山は38歳。知人から届いたメールで、20年近く前に「ハウス」と呼ばれた共同住宅でともに過ごした仲野がネット上で騒動を起こしていることを知る。

 「おまえは絶対になにも成し遂げられない」-。自分に呪いのような予言を投げつけた男の名前に触れ、永山は漫画家を志し創作に打ち込んだハウスでの日々を思い出す。“自作”の出版機会にも恵まれたが、強い自意識や嫉妬心も災いし、ほかの芸術家志望者との溝も深まり…。物語は誰もが何者かになろうともがいたそんな青春期と、現在を丹念に追う。

 芥川賞受賞作『火花』は若手芸人コンビの話で、2作目『劇場』は売れない劇作家の恋愛譚。ともに20代男性を主人公にして青春の輝きと挫折を描いた。今作では青春の「後」をじっと見つめる。「青春時代を経た人間がその挫折をどう消化し、何を考えて過ごしているのかなって。劇的な瞬間は物語化されやすいけど物語が終わった後も人生は続く。むしろそっちの方が長いし、その間もみんな『人間』じゃないですか」

 光もあれば影もある、浮き沈みのある日常は昔と同じ。永山のなかで変わるのは、強く焦がれ、痛め付けられてもきた「才能」という言葉に対するスタンスだ。再会した旧友と交わす芸術論議の中で、永山は主張する。〈普通の感覚やからこそできることって、やっぱりあるとおもうねん。特別な感覚を持ってない人は表現したらあかんということはないとおもう〉と。そんなおおらかな心境と響き合わせるようにして、〈何者かである必要などない〉というきっぱりした強さをもって大阪や沖縄で普通に暮らす永山の両親の姿も丁寧に描く。

 「『才能や作品のクオリティーこそ絶対だ』という芸術至上主義的な視点だけではなく、ほかにも世界はあるんだと永山は発見するんですよね。僕の実感としても、永山の東京での時間と、彼の両親が過ごす時間の価値は等しい。両親が過ごす時間の中で見た風景から、自分の属する世界に持ち帰れるものも何かあるんじゃないかと思うんです」

初の新聞連載

 『火花』で芥川賞を受けたのが約4年前。その後周囲の期待がのしかかり、おびえるように過ごした時期もあった。重圧を乗り越えて、一昨年に『劇場』を出すと、今度は虚無感に襲われた。「『火花』のときに『2作目が問題』と言っていた人の多くが、2作目を読んで感想をくれないことに腹立たしさを覚えた、というか。『ああ、また自分だけ真面目にやってもうた』…みたいな」と笑う。

 初の新聞連載となった今作は、ほどよい「ライブ感」に背中を押されるようにして書き上げた。

 「終わった後はしばらくいろんなもんを吸収する時間にしようと思ったんですけど、書きたいものが自然に2つくらい出てきたんです。自分とすごく近い作品を書くのはここで終わり。また全然違う物語を書いていけるかなと」

【プロフィル】又吉直樹(またよし・なおき) 昭和55年、大阪府寝屋川市生まれ。綾部祐二さんとお笑いコンビ「ピース」で活動(現在は休止)。初の純文学作品「火花」で平成27年に芥川賞を受賞。同作の単行本は250万部を超えるベストセラーとなった。ほかの小説に『劇場』がある。

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