世界一透明な湖「ロトマイレフェヌア」の危機:神秘の青紫を脅かす「湖の鼻水」とは?

ニュージーランド南島、ネルソン・レークス国立公園の奥深く。魔法のような青紫色に輝く神秘の湖、ロトマイレフェヌア。マオリの人々にとって聖地であり、近年は「世界一透明な湖」として世界中から注目を集めています。しかし、その美しさの裏側には、透明度を脅かす危機が潜んでいるのです。

ロトマイレフェヌア:透明度の秘密とマオリの聖地

alt ニュージーランド南島のネルソン・レークス国立公園にあるロトマイレフェヌア湖の美しい景色。透明度の高い湖水が青紫色に輝き、周囲の山々と調和している。alt ニュージーランド南島のネルソン・レークス国立公園にあるロトマイレフェヌア湖の美しい景色。透明度の高い湖水が青紫色に輝き、周囲の山々と調和している。

コンスタンス湖の氷河水が流れ込むロトマイレフェヌアは、マオリのンガーティ・アパ族によって「平和な土地の湖」と名付けられました。死者の骨を清める神聖な場所として崇められ、祖先の霊がハワイキ(マオリの祖先の故郷)へ安全に旅立てるよう祈りを捧げる場所でもありました。

その透明度は、なんと70~80メートル!これは純水に匹敵し、「これまで報告された中で最も澄んだ淡水」とされています。その神秘的な青紫色は、訪れる人々を魅了し、近年はSNSを通じて世界中にその名が知れ渡りました。

透明度を脅かす「湖の鼻水」の正体

alt 顕微鏡写真で見えるリンダビア藻。糸状の粘着物質を分泌している様子がわかる。alt 顕微鏡写真で見えるリンダビア藻。糸状の粘着物質を分泌している様子がわかる。

しかし、この美しい湖に危機が迫っています。それは「リンダビア」と呼ばれる微細藻類の蔓延です。「湖の雪」や「湖の鼻水」とも呼ばれるこの藻は、粘着性の物質を分泌し、湖の透明度を低下させる可能性があります。

政府系環境機関「ランドケア・リサーチ」の藻類研究者、フィル・ノビス氏によると、リンダビアは北米から漁具を介してニュージーランドに侵入した外来種と考えられています。2000年代初頭に初めて確認され、その後急速に広がりを見せています。

ノビス氏は、「主な媒介者は人間だ」と指摘します。過去の研究で、ニュージーランドの380の湖から堆積物コアを採取して調査した結果、リンダビアが生息していたのは人間がアクセスしやすい湖だけだったことが明らかになりました。

リンダビアは少量でも湖の生態系に深刻な影響を与える可能性があり、水滴に混じって容易に拡散します。ノビス氏は、ワナカ湖で泳いだ男性の胸毛にリンダビアが付着していた例を挙げ、その拡散力の強さを強調しています。

ロトマイレフェヌアの未来を守るために

リンダビア自体は人間に無害ですが、分泌する粘着物質「ムチレージ」は、釣り糸に絡まったり、船舶のフィルターや水力発電施設を詰まらせたりするなど、様々な問題を引き起こします。ロトマイレフェヌアにおいては、ムチレージが湖の透明度を損なうことが懸念されています。

ンガーティ・アパ族を支援する非営利団体の生態学者、ジェン・スキルトン氏は、「リンダビアの侵入は湖の水質や生態系全体に深刻な影響を与える可能性がある」と強い危機感を抱いています。

ロトマイレフェヌアの美しい青紫色を守るためには、リンダビアの拡散を防ぐ対策が不可欠です。ハイカーや観光客は、靴や装備を清潔に保ち、藻の拡散を防ぐよう注意する必要があります。関係機関による監視体制の強化や、効果的な対策の確立も急務です。

世界に誇る美しい湖、ロトマイレフェヌア。未来の世代にもこの美しい景色を残すために、私たち一人ひとりができることを考え、行動していく必要があるのではないでしょうか。